世界は、ロシアのウクライナへの侵攻をはじめ、インド太平洋地域の安全保障上の懸念、平時からの情報戦、ハイブリッド戦の脅威など、極めて困難な状況に直面している。日本はこれを戦後最も厳しく複雑な安全保障環境であると認識し、2022年12月16日に『国家安全保障戦略』を閣議決定した。その中で、「認知」領域を新たに安全保障として認識し、偽情報(ディスインフォメーション)の拡散を含めこの領域における情報戦への対応能力を強化していく姿勢が示されている。
これまでの日本は、海外からの偽情報の拡散を含む情報戦対策において、脇が甘く、国際社会の流れから大きく遅れをとっていた。現代の戦争では、ロシア・ウクライナ戦争に見られるように、さまざまな情報が飛び交い、真偽の区別もつきにくく、偽情報が戦争の行方を左右しかねない。ロシア・ウクライナ戦争は23年に入ってもこの状況が続いており、混沌とした情勢となっている。
その一例は、ロシア軍拠点で起きた事件である。23年1月1日、ウクライナ側がドネツク州マキイウカにあるロシア軍臨時兵舎を攻撃し、「400人以上のロシア兵が死傷した」と発表、これに対しロシア側は、89人のロシア兵が死亡したことを認めた。しかし数日後、ロシアが「報復爆撃」としてウクライナ軍の駐屯していた建物を爆撃し、「600人以上のウクライナ兵を殺害した」と発表、これに対しウクライナ側は、「プロパガンダだ」とロシアの発表を虚偽であると否定するなど、何が真実なのか全く不明な状況が出現しており、情報戦が戦局に大きな影響を及ぼす事態が続いている。
そうした状況下で、日本が情報戦を含む認知領域を新たな安全保障分野に位置付け、国際社会との足並みを揃えようとする姿勢が示されたことは一歩前進である。他方、この分野での対策は、世界を見渡しても、誤った方向に進むとむしろそれが逆効果になる場合もあり、容易ではない。日本がいかにして偽情報対策を進めるべきか、『偽情報戦争』の中身を一部紹介しつつ検討してみよう。