2022年9月26日(月)

バイデンのアメリカ

2022年9月8日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 出口の見えないウライナ戦争――。プーチン露大統領の手痛い誤算の背景として、同国情報機関による終始楽観的な戦況見通しがあったことが、米ワシントン・ポスト紙特別チームによる調査報道でこのほど明らかにされた。侵攻の動きを事前察知し、世界に向けて警告していた米側インテリジェンスとの質的差も浮彫りにされた。

(代表撮影/AP/アフロ)

周到な情報準備も、報告は楽観的なものばかり

 ワシントン・ポスト紙は先月、ウクライナ戦争がロシアによる軍事侵攻開始から6カ月の節目を迎えるのを機会に、ベテラン記者を総動員し、米欧、ウクライナなど各国政府、軍・情報関係者を中心に精力的なインタビュー、背景取材に着手、その分析結果を数回に分け大々的に報道した。

 この中で特に注目されるのが、冷戦時代の国家保安委員会(KGB)に代わり、クレムリンの戦争立案・遂行に中心的役割を演じてきた「連邦保安庁(FSB)」の存在だ。

 FSBは2019年まで、部内の「ウクライナ課」に30人程度のスタッフを擁してきたが、その後、思い切った改革に乗り出し、今年2月の侵攻直前には、160人に大幅増員された。ウクライナ各州に専従要員を送り込み、国じゅうにスパイネットワークを張り巡らした。

 プーチン大統領がひとたび「ウクライナ侵攻」を決断すると、FSBは、ゼレンスキー政権や軍内部に潜伏させていたスパイ網を通じ、ロシア軍が展開すべき具体的侵攻作戦、予想されるウクライナ側の反応などについて、クレムリンに詳細にわたる報告を行ってきた。

 その核心部分は「同国政権は(侵攻後)短時間のうちに崩壊する」というものだった。

 ウクライナ側の執拗なレジスタンスの可能性については、ほとんど言及しなかった。

 ゼレンスキー政権の「短期崩壊」を前提に、「傀儡政権」樹立準備も完了、それを支えるウクライナ側の中心人物たちまで根回ししていた。その中には、かつてウクライナ大統領を務め、政変で2014年にロシアに逃亡したビクトル・ヤヌコビッチ氏、ウクライナ野党党首でプーチン氏とも親交を深めてきた新興財閥のビクトル・メドベチュク氏らが含まれていた。一方、ウクライナ現政権の情報機関はすでに、彼らについては「FSB同調者」としてマークしていたという。

 しかし、FSB本部は、こうしたウクライナ情報機関の警戒ぶりに気づいた様子はなく、ロシア軍侵攻開始「最終段階の数日間」には、首都キーウ周辺に潜伏する工作要員たちのために用意した「居住用アパート案内」や「傀儡政権」樹立後に続々とモスクワから潜入が予想される要員たちのための受け入れに関する細かな指示を現地に頻繫に送っていた。

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