司会・進行
山田敏弘(国際ジャーナリスト)
ディスインフォメーション
桒原響子(日本国際問題研究所 研究員)
インテリジェンス
小谷 賢(日本大学危機管理学部 教授)
サイバー
大澤 淳(中曽根康弘世界平和研究所 主任研究員)
構成・編集部(大城慶吾、鈴木賢太郎)
撮影・さとうわたる
山田 ロシアによるウクライナ侵攻について、インテリジェンス(情報機能)、サイバー、ディスインフォメーション(偽情報)などの観点から現在の戦況をどのように評価しているか。
小谷 米国のインテリジェンス機関が衛星や通信傍受により、ロシアの情報を収集しているように見受けられる。さらに英国であれば、プーチン大統領の取り巻きの中に情報協力者を獲得している可能性すら考えられるし、政権を離れロシアを出国したオリガルヒ(プーチン政権を支える新興財閥集団)などから聞き取り調査を行っているのだろう。
特筆すべきは、これまでの経過から、米英が収集したインテリジェンスをオブラートに包みながらも、対外的に発信するとともに、ウクライナ政府とも共有していると考えられることだ。従来であれば、米英加豪ニュージーランドの英語圏5カ国によるインテリジェンス同盟である「ファイブ・アイズ」でしか共有されないような情報を、例外的にウクライナに提供することは異例中の異例である。
米英は世界中にさまざまな情報を発信し続けている。これらは、ロシアの侵攻を抑止する効果は薄かったが、副次的にロシア国内やウクライナ国内に侵攻に関する情報が浸透し、ロシアのディスインフォメーションを駆逐するような効果があった。
大澤 2013年に、ロシアのゲラシモフ連邦軍参謀総長が現代戦をいかに戦うかという論文の中で、サイバーを含む非軍事的手段対軍事的手段を4対1で使用すると明言しているが、その非軍事的手段の中核を占めるものが情報操作とサイバー戦である。
軍事侵攻を目的としたサイバー攻撃では軍の通信系統を狙った攻撃が行われることが多いが、今回はウクライナ軍の通信網が遮断されることはなく、重要インフラへの被害も生じていない。これはロシア軍の準備不足によるものか、重要インフラを攻撃し無力化しなくても戦争に勝てると過信した戦略判断ミスなのかは現時点でわからない。ただ、これまでのセキュリティー関係者間の議論を総合すると、ロシア軍が総力を挙げて攻撃したのかという点で、やはり疑問が残る。
確かに、今年に入ってから、ウクライナの政府機関や軍、同国の二大銀行、民間企業を狙ったサイバー攻撃が発生している(下表)。ロシアが攻撃していると見られるが、それでも被害はあまり大きくなかった。米国などが事前に手を打ち、カウンター攻撃を仕掛け、被害が減殺されたのかもしれない。
表 ロシアはサイバー攻撃でウクライナを打倒できていない