デジタル時代の経営・安全保障学

2022年4月16日

»著者プロフィール
著者
閉じる

大澤 淳 (おおさわ・じゅん)

中曽根康弘世界平和研究所主任研究員

慶應義塾大学法学部卒業、同大学院修士課程修了。専門は国際政治学(戦略評価、サイバー安全保障)。外務省政策調査員、米ブルッキングス研究所客員研究員、内閣官房国家安全保障局参事官補佐、同局シニアフェローを経て現職。

 2022年4月7日、経済安全保障推進法案が衆議院本会議で賛成多数で可決され、参院に送付された。4月13日には、参議院本会議で法案の趣旨説明と質疑が行われ、今国会で早期に成立する見込みである。

経済安全保障推進法案は、岸田文雄政権の肝煎り施策であったはずだが(代表撮影/ロイター/アフロ)

 同法案は、重要物資の安定供給確保、基幹インフラの安全確保、先端重要技術の開発支援、秘密特許制度、の4本柱から構成されている。内閣官房が2月に公表した資料では、同法案の趣旨として、「国際情勢の複雑化等に鑑み、安全保障の確保に関する経済施策を総合的かつ効果的に推進するための基本方針と制度の創設」が説明されている。

 世界的に「経済安全保障」の必要性が高まる中では一歩前進とも見えるが、法案策定の目的から考えると、対象とするものがかなり絞られているようにも見える。ウクライナ情勢、米中新冷戦という国際情勢の最中で日本を守ることができるのだろうか。

危機意識の浮上から法案策定への道のり

 経緯をさかのぼれば、経済安全保障が注目を浴びたのは、自民党の「ルール形成戦略議員連盟」(会長:甘利明衆議院議員)が、19年3月20日に『国家経済会議(日本版 NEC)創設』と題する政策提言を発表してからである。同提言は、激化する米中競争が技術・資源・ルールを巡る争いに発展しており、エコノミック・ステイトクラフト(経済手段による国益の追求)が激しさを増している、という情勢認識を示した。そして、戦略的外交・経済政策を策定する「国家経済会議」を創設し、最先端技術の輸出規制強化、外国企業の投資監視強化、経済制裁、知的財産管理、国際標準のルール形成に取り組むことが必要である、との提言を行った。

 その後の検討の中で、「国家経済会議」の創設は実現しなかったが、この提言を受ける形で、国家安全保障局内に経済部門を設置する方向が19年9月に決定され、翌20年4月に経済安全保障班が発足した。報道等によれば、経済安全保障班は、①技術安全保障(輸出管理、海外からの直接投資規制、技術移転規制、サプライチェーンリスク)、②サイバーセキュリティ(次世代移動体通信(5G)基盤のセキュリティ 、サイバーセキュリティの情報共有、データセキュリティ)、③国際協力(インフラ整備、ハイテクの技術開発)、④新型コロナ対応(越境移動規制、医療機器調達)などを担うとされている。

 立法面では、経済安全保障推進法以前から、既存の法律の改正や新法の制定によって安全保障上の規制が強化されてきた。20年6月には、外為法の改正が行われ、国の安全を損なう恐れのある投資への対応として、指定業種上場会社株取得時の事前届け強化(10%から1%)、安全保障上重要な事業の譲渡・廃止および非公開技術・情報へのアクセス等に関する届け出制度の導入が行われた。また、議員立法による「国家安全保障上重要な土地等に係る取引等の規制等に関する法律」 も21年6月に成立し、国家安全保障上重要な地域の重要国土区域指定や、同区域の土地取引届け出制度の導入および国による買い取りや収用などが定められた。

関連記事

新着記事

»もっと見る