経済安全保障推進法案の成立が今国会で目指されている。米中対立の先鋭化を背景に、国家を守る戦略活動と企業が進める商業活動との仕切りが氷解しつつあります。
「Wedge」2022年2月号に掲載されたWEDGE OPINIONでは、そこに欠かせない視点を提言しております。記事内容を一部、限定公開いたします。全文は、末尾のリンク先(
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国際政治における米国の断然たる優位に微妙な揺れが出始める中、地理的近傍の中国が経済力拡大によって軍事力を増強し、現状変更の意図を隠さなくなった今、日本は安全保障の力量を強化する必要に迫られている。この危機意識の中で、経済の力を国家の安全保障に活用する方策を模索すべきだという議論が、多くの人々の支持を得てきている。しかし、具体策はなお議論百出である。
経済安保は英語では「Economic Statecraft」と表現され、国家の内政や外交を管理運営する経済分野の力を意味する。2点断っておくが、まず経済安保は経済活動の安全を保障する方策のことではない。安全を保障する対象は、あくまで主権国家の国益であり、それを他国の政治・軍事の圧力や攻撃から経済力を使っていかに守るかが課題である。もう一つ、日本は経済力さえあれば軍事力がなくても国は安泰だという、かつて左翼的識者が誘った主張でもない。経済安保は、経済力で軍事力に代替しようという施策ではなく、経済力で軍事力を補強するための方策である。
経済力は科学技術の開発を容易にし、技術が軍民双方の機能を高めるデュアルユースの時代には、産業の科学技術振興は防衛技術をも高め、先端的防衛装備を可能とし、防衛力を強化する。これは経済安保の主要な柱の一つである。
自由化や規制緩和により経済活動の活性化を目的とする本来の経済政策と、国家の安全保障の強化を目的とする経済政策は、別々の価値に立脚する2セットの経済政策である。これらは衝突関係にはなく、むしろ補完関係にある。経済利益が拡大し経済基盤が強くなければ、経済力を使って国の安全を確保する政策は成功し難い。また国の安全が脅かされる時、産業界の経済利益追求は大きな制約を受ける。