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2021年1月19日

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村山裕三 (むらやま・ゆうぞう)

同志社大学大学院ビジネス研究科教授

1953年生まれ。同志社大学経済学部卒。ワシントン大学より経済学博士号取得。野村総合研究所などを経て2004年から現職。専門は経済安全保障、技術政策など。主な著書に、『経済安全保障を考える』、『テクノシステム転換の戦略』(いずれもNHK出版)など。内閣府「イノベーション政策強化推進のための有識者会議『安全・安心』」委員、経済産業省「産業構造審議会、安全保障貿易管理小委員会」委員などを務める。

2016年に東京で開催された、日本国際工作機械見本市・工作機械関連の展示会 (NATSUKI SAKAI/AFLO)

 米中のハイテク覇権競争が激化するなか、経済安全保障の重要性が認識されつつある。日本社会の安全・安心に資するべく、また安全保障政策の充実のために経済をいかに使うかが問われている。

 経済そのものは市場メカニズムで動き、経済学が理論化しているように、時代によりさほど変化はしない。だが、その経済を安全保障政策のレンズを通してみると違った像が浮かび上がり、時代により異なった経済の安全保障面での役割が見えてくる。日本のように米中に挟まれ、武力に制限を加えた経済重視の国においては、経済力や技術力を駆使した経済安全保障政策を考える必要がある。

 私は30年以上、経済安全保障の研究に携わってきたが、時代に応じた経済安全保障政策を策定する必要性を痛感している。冷戦終結後のグローバル化が進行する時代には、日本が中国や北朝鮮を経済の論理で動く国へと誘導し、また9・11後の米国とはテロ対策などで日本が技術協力を行って日米同盟を強化する、といった「関係性の構築」が重要なコンセプトと考えた。

 しかし、グローバル化が後退した現在、世界に自国第一主義が蔓延し、米中の覇権争いが激化している。量子やAI、5Gやドローンといった軍事転用可能な重要技術が相次いで出現するなど、状況は大きく変わっている。その中で新たな戦略コンセプトが求められている。

 こうした環境で、いま日本が経済安全保障の観点から必要なことは何か。それは「戦略的不可欠性」の確保である。これは他国から見て決定的に重要な領域における、代替困難なポジションを日本が獲得するという考え方だ。技術面でいえば、従来培った技術的な強みを生かすことで、米中の対立における日本の立場を際立たせ、存在価値を両国に示すことができる。

 例えば、半導体材料、半導体製造装置、工作機械、計測機器などはいずれも戦略的不可欠性を持つ技術だ。半導体の基盤であるシリコンウエハーでは、信越化学とSUMCOの両社で世界シェア5割以上を占めているし、ウエハーを切断するダイシングソーの分野では、ディスコが8割の世界シェアを持つ。

 2019年夏の、経済産業省による韓国向け半導体材料3品目の輸出管理強化は、まさに日本の戦略的不可欠性を持つ技術が絡んだケースだ。この強化策発表を受けて韓国では日本製品ボイコットが起こり、日韓秘密軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄の可能性にまで及んだ。こうしたことからも、戦略的不可欠性を持つ技術へのアクセス制限が相手国に大きな影響を与えることがわかる。

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