WEDGE REPORT

2021年1月6日

»著者プロフィール
著者
閉じる

加茂具樹 (かも・ともき)

慶應義塾大学総合政策学部教授

専門は現代中国政治外交。1995年慶應義塾大学総合政策学部卒業。同校法学部准教授等を経て2015年4月から同校総合政策学部教授に。16年10月、外務省に転籍して在香港日本国総領事館領事を務め、18年10月に復職。編著に『現代中国の政治制度』(慶應義塾大学出版会)等。
 

 大国としての中国とどう向き合うのか。いま、日本社会が突きつけられている問いである。中国の国家戦略を読み解きながら考えてみたい。

 中国指導部が掲げる国家戦略を理解するための手掛かりがある。2020年10月末に開催した中国共産党の会議(中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議)に対して、習近平指導部が示した「国民経済と社会発展の第14次五カ年計画と2035年長期目標の制定に関する共産党中央委員会の提案」である。これには21年から25年までの五カ年の経済社会の発展戦略と35年までの長期目標が描かれ、21年3月の全国人民代表大会で国家の意思として承認される見通しである。

 ただし「提案」を、そのタイトル通り5年、15年という短中期の戦略を描いたものと理解すべきではない。習近平の言葉を借りれば、それは21年の共産党創立100年までに「ややゆとりのある」社会を全面的に完成させたのち、「勢いに乗って、近代的社会主義国家の全面的な建設にむけた新たな征途を開き」、49年の建国100年までに「近代的な社会主義強国」を構築するための基本方針を示すものである。

2021年に創立100年を迎える中国共産党。49年の建国100年までに「近代的な社会主義強国」構築を目指す (KEVIN FRAYER/GETTYIMAGES)

 指導部は、自らの国家戦略を修飾するスローガンとして、「中華民族の偉大なる夢」を掲げてきた。これを実現するためにセットしたタイムスケジュールが、建党と建国の「2つの100年」であった。「提案」には、建党100年を超えて、建国100年(49年)に向かう歩み、という大きな絵が示された。

 「提案」は、一つの国際情勢認識によって支えられている。国際社会は「100年に一度の未曾有の変化に直面している」である。指導部は、国際社会のパワーバランスの変化、その結果生じる国家間のルールの変化、そして科学技術革命と産業変革の深化がこれらに拍車をかけていると見なし、国際社会の複雑性、不安定性、不確実性への警戒を抱いている。

 また「提案」では国名を明示していないものの、経済成長に伴い国力を増大させた中国が地域のパワーバランスに影響を与えていること、米国の国力の相対的な後退、米中対立、そして新型コロナウイルス感染症の蔓延による世界経済の低迷は長期的傾向だと捉えている。指導部は、こうした国際社会の長期的傾向を念頭に、それが生み出すリスクへの備えと、チャンスに変えるための戦略を「提案」に示した。

 「提案」の論点を説明する習近平の署名入り文書によれば、「提案」は、この戦略を実装するために取り組む国家の重要任務を12の分野に整理した(下図)。筆頭に掲げられたのが科学技術の革新である。イノベーションをその核心的位置にすえ、科学技術の自立と自彊(じきょう)を国家発展の戦略的支柱とすること、などが語られた。

(出所)関係資料を基にウェッジ作成 写真を拡大

 すでに第13次五カ年計画期間中(16年~20年)に、「中国製造2025」「中国標準2035」などの科学技術振興に関する政策方針が示され、イノベーションは重要政策の第一の柱として掲げられていた。第14次五カ年計画は、これに「科学技術の自立と自彊」や、人工知能や量子技術、宇宙などの先端分野を射程に入れた「鍵となる核心技術の攻略戦に打ち勝つ」といった言葉を加えていた。「提案」は、技術覇権争いに臨む指導部の決意が示されているといってよい。

関連記事

新着記事

»もっと見る