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2020年12月23日

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小川 聡 (おがわ・さとし)

読売新聞東京本社編集局政治部次長

1971年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、読売新聞に入社。ワシントン特派員、政治部外交・安全保障担当デスク、アメリカ総局長などを歴任。著書に『領土喪失の悪夢』(新潮新書、共著)、『トランプ ロシアゲートの虚実』(文春新書、共著)など。
 

 経済安全保障とは何かと聞かれると、「重要な技術を外国から盗まれないように守る」「安全なサプライチェーン(供給網)を築く」といった政策を思い浮かべる人が多いのではないか。こうした政策は経済安保に含まれてはいるが、それだけでは経済安保の全容を正しく捉えているとは言えない。

バイデン新政権誕生後の米中対立の行方が注目されている
(JOE RAEDLE/GETTYIMAGES)

 地球規模の指導力が欠如し、紛争の危険が増す「Gゼロ」の世界が到来することを予言した米政治学者のイアン・ブレマー氏は2020年11月、読売新聞に掲載された筆者との電話インタビューで、経済安保について次のように語っている。

 「世界では今、Gゼロと、米中がテクノロジーで世界を二分する、私が『T-2』と呼ぶ新たなダイナミクスが共存している。(中略)米政府がもし、『テクノロジー冷戦』の方向に進むのであれば、Gゼロは終わり、世界の新たな無秩序状態が作り出される」

 テクノロジーが軍事力など地政学に直結するようになる中、経済安保が、国際情勢を規定する新たな潮流になる可能性を見通しているのだ。

 本稿ではこうした認識に立ち、経済安保の最近の動きを概観したうえで、日本の立ち位置について考えてみたい。

技術盗み軍事転用する中国
本気で排除を狙う米国

 経済安保が注目されるようになったのは、中国のおかげだ。中国は過去10年以上にわたり、先進民主主義国から先端技術や情報を手段を問わずに入手し、「軍民融合」を図って軍事力強化につなげてきた。象徴的な例が、海外の優秀な研究者らを破格の厚遇で招致し、機微な技術や情報を移転させる「千人計画」だ。

 読売新聞では、筆者が監修した年間企画「安保60年」の第2部(20年5月4日~20日)で「経済安全保障」を特集した。この中で、「千人計画」に参加し、北京理工大学の教授となった日本人男性を取り上げている。

 男性は、5年間で1億円の研究資金に加え、日本の大学の退職時を大きく上回る報酬、北京市中心部の高層マンションの家賃負担などの待遇で北京理工大に招かれた。ロボットとAI(人工知能)に関する技術を教えているという。同大は中国軍の兵器開発と関係が深い。男性の技術も「応用すれば、無人機を使って自爆攻撃を行うことができる」(本人談)といい、軍事転用されることは間違いない。

 このほか、共同研究、輸出(中国にとっては輸入)、投資(企業買収)、産業スパイ、サイバー窃取、強制的な技術移転などにより、中国は、外国の機微な技術・情報を中国国内に取り込もうとしている。

 中国は、これらの手段で獲得した高度で機微な技術を生かし、戦略的に重要な産業で中国主導のシステムを世界中に広げることも画策している。

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