世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年10月22日

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 米中対立が厳しさを増す中、アダム・シフ米下院情報委員長は、Foreign Affairs(電子版)の9月30日付け論説 ‘The U.S. Intelligence Community Is Not Prepared for the China Threat’ で、米国の情報コミュニティが中国の脅威に十分対応していないと厳しく批判している。シフは、中国は権威主義的な統治モデルで国内を弾圧し、世界における影響を拡大させようとしおり、米国は自由民主主義を守るためにも、諜報組織に関わる資源と人員を拡大させるべきだと主張する。そうしなければ、今後数十年間、世界の舞台で中国と競争する上で準備不足の状況が続くであろう、と言う。

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 シフの中国観は大変厳しいものである。論説では「中国は経済的、軍事的、外交的な力を拡大させており、新権威主義による自由民主主義に対する挑戦の最前線にいる。中国は、自分たちの野心への挑戦がない、国家の必要が個人の自由に取って代わるような世界を構築しようとしている」と述べ、中国共産党指導部は、中華民族の復興を成し遂げることにより「中華帝国」としての地位を回復させなければならないと信じている、と指摘する。また、中国は全体主義モデルを輸出しようとしている、と批判する。

 この論説は、米下院情報委員会の委員長が同委員会の調査結果に基づき発表した意見であり、注目に値する。大統領選挙前であり、民主党は中国にソフトだという批判をかわす狙いもあるかもしれないが、シフがここで披露している対中基本認識は2017年の米国政府『国家安全保障戦略』から始まるトランプ現政権のものと通底する。

 この対中基本認識は、軍事安全保障、情報の観点から言えば妥当である。性悪説に立ち、はっきりしない場合は最悪のシナリオを想定するのが、軍事安全保障、情報の任務の特性である。したがって、この対中基本認識は、そうでないことが証明されるまで続く。つまり米国の国防部門に続き情報部門も、中国と全面的に対抗する方向に進むということである。

 この関連で、同じくForeign Affairs電子版に8月31日付けで掲載されたアンソニー・ヴィンチの ‘The Coming Revolution in Intelligence Affairs—How Artificial Intelligence and Autonomous Systems Will Transform Espionage’ と題する一文も興味深い。人工頭脳(AI)と自動システムが、諜報分野をいかに変容させ、軍事、非軍事の境界がいかに曖昧になっていくかを解説している。日本の現状を顧みるとき、はたして米中の情報戦に日本が適切に対応できるのか心配になる。

 いずれにせよ、中国は、こういう風に覚悟を固めた米国と直面している。中国指導部は、将来待ち受ける風雨をある程度は予測しながら進めているであろうが、想定外の対価を払わせられる可能性は高い。他方、米国も、現時点で総力を傾けてやれば中国を抑え込めると考えているかも知れないが、中国が直接対決を避けながら米国の圧力をかいくぐり、さらに地力をつけてくる可能性も結構ある。米中関係が羅針盤を持たずに嵐の海に漕ぎ出したことだけは間違いないと言えそうである。

  
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