2025年4月9日(水)

Wedge REPORT

2025年4月2日

 「値決めは経営である」と稲盛和夫氏が言ったのは有名な話だが、近年、多くの日本企業は原材料費や人件費の上昇、物流コストの増加など、さまざまなコスト要因に直面し、価格戦略の見直しを余儀なくされている。

 日本マクドナルドが2025年3月に値上げを発表。外食チェーンにも広がっており、ガストは、24年11月に約6割のメニューを20~40円値上げし、ロイヤルHDは25年2月にファミレスチェーン「ロイヤルホスト」で約8割の商品を値上げした。

日本マクドナルドの価格戦略は、値上げが進む日本企業にとって学ぶべきことも多い(tupungato/gettyimages)

 これまでの日本企業は“よいものを安く大量に”という価値観で成長してきた。松下電器(現・パナソニック)の創業者で経営の神様とも呼ばれた松下幸之助の“水道哲学(水道の水のように、製品を大量に手に取りやすく提供する)”は伝統的パラダイムの典型であろう。しかし、日本企業は提供する量、価値、価格の3点において何がベストなバランスかを再考する時が来ている。

 本稿では、日本マクドナルドの値上げ戦略と、その背後にある経営戦略と今後の価格戦略の可能性について考察する。

日本マクドナルドの値上げ戦略と経営戦略

 日本マクドナルドは、22年3月と、22年9月にも値上げをしている。その都度メディアは値上げを憂い、SNSなどではネガティブなコメントが出てきていたが、結果としては昨年対比で10%ほど売上がアップしている 。値上げ直後の月次を見ても、既存店が売上高・客数・客単価のどれも前年同月比でマイナスになっていない。

 23年1月には、ハンバーガー150円→170円、ビッグマック410円→450円、マックフライポテトSサイズ160円→190円、プレミアムローストコーヒーSサイズ100円→120円と、約8割の商品・メニューを値上げした。2000年代の平日65円という破格の値段から見ると、ハンバーガーの価格が3倍近くになっている。

 当時のマクドナルドの値上げについて、消費者の多くは「理由はわかるけど、残念」と反応していたかと思う。24年2月のデータでは、客数3.2%増、客単価2.5%増と、値上げ後も業績が向上。24年には単品メニューを中心に10円~30円の値上げを行った。近年、度重なる値上げにもかかわらず、売上高の成長を維持している日本マクドナルドは単なるコスト転嫁を超えたアプローチと戦略がある。

 日本マクドナルドのマーケテイング戦略の特徴は以下と考えられる。

 第一に、ブランド価値の向上である。単なる「安さ」ではなく、「品質と利便性」を前面に押し出し、ブランド価値を向上させる戦略を取っている。

 従来の「安価なファストフード」というイメージからの脱却を図るために、高品質バーガーの導入等を通じてプレミアム価格帯を展開している。セットメニューの価格調整などを通じて、利益率を向上させる。

 第二には上記で見たように、何年もかけて段階的に小幅な値上げを継続することで消費者の拒否反応を緩和している。

 第三にはデジタルを活用したオペレーションの強化が挙げられる。モバイルオーダーやデジタルクーポンの活用により、顧客体験を向上させつつ、業務効率化を実現している。


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