そこで、「ペイ・ホワット・ユー・ウォント(PWYW)」方式も検討の余地がある。この方式では、最低価格を提示し、それ以上の価格を消費者の選択に委ねる。ある野菜の「無人販売所」では、「貧乏な方は100円、お金持ちは200円、不労所得で暮らす方は300円」という張り紙がされていて、100円以上を支払う人が一定数いたという話がSNSで流れていた。この例は真意の確認ができていないのだが、考え方として外食産業に応用することも可能であろう。
上記のようなアプローチに加えて、航空券やホテル業界、Eコマースで広く採用されているAIやビッグデータ解析を活用し、消費者の所得や購買履歴、行動データを基にリアルタイムで最適価格を設定する「ダイナミックプライシング」の外食産業への適用も考えてよいだろう。
多様な価格戦略の取り組みは実はすでに始まっている。スターバックス コーヒー ジャパンは、25年2月15日より、全国の約3割の店舗で「立地別価格」を導入している。 この取り組みは、店舗の立地や商圏の特性に応じて価格を設定するもので、以下の2つのカテゴリーに分かれている。
1. 特定立地価格 A:全体の約4%の店舗が該当し、サービスエリアや空港などの店舗が対象。現行価格に対して平均約6%(13円~32円)の値上げが行われた。
2. 特定立地価格 B:全体の約27%の店舗が該当し、東京23区や大阪市内などの一部の店舗が対象。現行価格に対して平均約4%(4円~28円)の値上げが行われた。
一方、残りの約7割の店舗では、従来の価格が維持されている。ちなみに、ビバレッジ商品のソイミルク(豆乳)への変更はこれまでは持ち帰りで54円、店内利用で55円の追加料金が必要だったが、同日より全店で無料化されている。 これは値上げと同時にお得感を醸し出す施策を行うというマクドナルドでも見られた戦略であろう。
今後の展望
消費者製品の値上げは、単なる価格改定ではなく、企業と消費者の信頼関係に直結する重要な課題である。実価格を上げずに、内容量を減らす、素材を安価に変更するなどのいわゆるステルス値上げという手法もあるが、消費者庁の調査(2024)によると、「実質値上げ」に対して、72%の消費者が「ブランドへの信頼を失う」、59%が「メーカーの透明性に疑問を感じる」 と回答しており、ステルス値上げは企業のブランドイメージに深刻な影響を与えかねず、個人的にもあまりお勧めはしない。
そこで、本稿では持続可能な価格戦略を考察するヒントをマクドナルドの例を使いながら述べてきた。ちなみに、大衆商品の価格アップといわゆるラグジュリー製品の高価格戦略とは重複する部分もあるが、ラグジュリーはいかにエクスクルーシブ(排他的)にするかが鍵でありその本質が違うことには留意されたい。
価格アップと消費者の所得向上(従業員の賃金アップ)がタイムラグなく上がることが望ましいが、現実にはその調整は容易ではなく、所得格差が広がる可能性もある。消費者の所得水準に応じた柔軟な価格戦略の検討が求められるだろう。
