2026年2月14日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2026年2月14日

 近年、映画やアニメで人気を集める「鬼」や妖怪。しかしそれらのルーツは、遥かなる日本の歴史と民俗に深く根差しています。身近に感じていた鬼や異形の存在――それは、現代人が忘れかけた「日本人の心の闇と光」そのものなのです。そんな鬼や異形の発祥から変遷までを、民俗学の視点から紐解くのが『鬼と異形の民俗学』(飯倉義之 監修)です。本書が描く豊かな世界への旅路をご紹介しましょう。

「鬼」とは何者だったのか

 私たち日本人は、鬼にどんなイメージを持つでしょうか。赤や青の肌、角を持ち、虎の皮のふんどしを締めて金棒を振るう…こうしたビジュアルは室町時代以降のものとされ、意外にも近世に成立したものです。それ以前、「鬼」とはもっと曖昧で、正体不明の存在でした。不安、恐怖、そして人間を超えた何か――日本人は鬼を災害や疫病、異民族、そしてこの世ならざるもののメタファーとして捉え続けてきたのです。

 例えば、『古事記』や『日本書紀』に記された「ヤマタノオロチ」は八つの頭と尾を持つ大蛇として描かれます。これは鬼の始祖とも言える存在であり、支配されざるもの、異質なものの象徴でした。出雲の神話に登場するヤマタノオロチの退治譚は、今でも鬼退治物語の原型として語り継がれています。

鬼と「まつろわぬ者」たち、歴史と伝承をつなぐ

 鬼は単なる空想上の怪物ではなく、内と外、秩序と混沌、支配者と被支配者――そうした境界を象徴していました。朝廷に従わない「まつろわぬ民」が鬼として描かれる事例は数多く、日本の各地に点在する鬼伝説も、異民族や反乱勢力への恐れと結びついています。ヤマトタケル、景行天皇の伝説をはじめ、「人ならざるもの」「人間社会に馴染まないもの」として鬼は語られてきました。

 平安京の羅城門や戻橋など、都の境界には必ずと言っていいほど鬼が登場します。それは、世界の「外側」への不安の具現そのものです。また、豪族や武士たちによる鬼退治譚は、支配体制の正統性を物語る一方、時に怪異の世界への畏怖と憧れさえ感じさせます。


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