2024年初頭に米国で確認された乳牛における高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)ウイルスの感染は、従来の常識を覆す事態となった。これまでの歴史において、H5N1は主に家きん類や野生鳥類に致命的な被害を与えるウイルスだった。それが、予想もしなかった乳牛に感染したからである。
日本での感染はまだ確認されていないが、今、どのような影響が起き、いかなる対策がなされているのか。今後の展望とともに解説していきたい。
インフルエンザの起源
そもそもインフルエンザウイルスは、カモやチドリといった野生の渡り鳥を自然宿主とする「鳥の病気」である。これらの渡り鳥の腸内にウイルスが共生し、多くの場合、鳥自身に強い病原性を示すことはない。
インフルエンザウイルスは、変異が極めて激しいという特徴がある。特に、異なる型のウイルスが同一の個体に同時感染した際に遺伝子が入れ替わる「遺伝子再集合」によって、全く新しい性質を持つ新型ウイルスが誕生する。人類の歴史において、インフルエンザがヒトの感染症となった理由は、鳥を家畜として飼育し始め、密接に接触する環境が生まれたことで、本来は鳥の間で循環していたウイルスが「種の壁」を越えてヒトに感染する機会を得たことである。
現在も、中国南部の雲南省や広東省などでは、鳥と豚、そして人間が極めて近い距離で生活する伝統が残っているため、新型インフルエンザの発生源となりやすい。豚は、鳥型ウイルスの受容体とヒト型ウイルスの受容体の両方を持っているため、両方のウイルスが感染して混ざり合う「混合容器」の役割を果たす。その結果、鳥由来のウイルスが豚の体内でヒトに適応した形に変異し、パンデミックを引き起こす新型インフルエンザへと進化するルートが形成される。
1918年のスペイン風邪、57年のアジア風邪、68年の香港風邪といった過去のパンデミックは、いずれもその起源を鳥インフルエンザウイルスに遡ることができる。
