2026年3月5日(木)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2026年3月5日

乳牛のインフルエンザ感染の起源

 2024年3月に米国農務省(USDA)によって乳牛のH5N1ウイルス感染の初発事例が公表された。その後の解析によれば、23年末から24年初頭にかけてテキサス州で野生鳥類から乳牛への感染が発生したと推定されている。

 これまで牛などの反芻動物は、インフルエンザウイルスに感染しにくいと考えられてきた。過去に散発的な抗体検出例はあるものの、今回のような大規模な集団感染の報告は歴史上例がなかった。今回の事態を引き起こした最大の要因は、ウイルスの標的が「呼吸器」から「乳腺」へとシフトした点にある。

 牛の気道はインフルエンザウイルスが結合しにくい構造をしていたが、近年の研究により、牛の乳腺上皮細胞には、鳥型ウイルスが結合する受容体と、ヒト型が結合する受容体の両方が豊富に存在することが判明した。そのため、ウイルスは乳腺で増殖することができたのだ。そして、乳汁中には極めて高い力価のウイルスが排出され、搾乳機などの器具を介して牛から牛へと効率的に伝播するようになったのである。

感染拡大の影響は?

 乳牛のH5N1感染は、鳥類で見られる90%以上という高い死亡率とは対照的に、2%程度と低い。しかし、臨床症状は顕著であり、酪農生産に多大な影響を及ぼす。

 感染した乳牛は、食欲減退、発熱、嗜眠、脱水、および反芻時間の減少などの症状を示す。最も特徴的なのは乳腺への影響であり、急激な乳量の減少と乳質の低下が起こる。

 オハイオ州の農場で行われた調査によれば、臨床症状を示すのは牛群の約20%だが、血清学的調査では約90%が抗体陽性となっている場合があり、不顕性感染が蔓延している実態が明らかになった。

 酪農経済への打撃は大きく、3876頭規模のオハイオ州の農場で行われた試算では、臨床症状を呈した牛1頭あたり、60日間で約900キログラム(kg)の乳量が失われ、損失は約950ドルに及ぶ。1回の発生による総損失額は73万7500ドル(約1.1億円)に上った。米国の酪農業全体では、最大20%の生産量減少が想定されており、国内総生産(GDP)に対して0.06%から0.9%の損失をもたらすと予測されている。


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