物語に息づく異形―鬼、天狗、妖怪、物の怪
鬼退治の伝説は世代を超えて受け継がれ、日本各地にユニークな物語を生み出しました。「酒呑童子」や「温羅伝説」「桃太郎」など、誰もが知る昔話も、史実と伝承が重なり合う「異界」の物語です。「酒呑童子伝説」の舞台となった大江山には、疫病祓いの祭祀の記憶が息づき、「鬼ノ城」の遺構には古代の異民族への恐れや人間の心の闇が重ねられています。
一方で、鬼のライバルともいえる幽霊や「物の怪」、天狗――人を超えた超自然的な存在が物語の中で躍動します。特に源氏物語に繰り返し現れる「物の怪」は、怨念や心の闇の象徴として、現代人が持つ“内なる鬼”とも重なって見えてきます。
鬼と異形の民俗学の「今とこれから」
鬼の物語は、時代ごとに姿を変えながらも、日本人の価値観や心の在り方に根ざしてきました。災厄、戦乱、疫病、そして心の闇。それらは「見えざる異形」となり、文化や信仰、芸術の源泉として豊かな物語世界を紡いできたのです。陰陽師・安倍晴明による呪術と鬼退治、百鬼夜行絵巻に描かれる多様な妖怪たち、鬼女・鬼婆といった人間と怪異が混ざり合うエピソード、そして現代のコンテンツとして受け継がれる鬼のイメージ…『鬼と異形の民俗学』は、そうした知識と洞察を、わかりやすい言葉と豊富な事例で案内してくれます。
本書は決して「鬼」や妖怪の単なる資料集ではありません。鬼とは何か、人はなぜ鬼を語り続けるのか、歴史の中でどんな象徴を担ってきたのか――そうした根源的な問いを立て、民俗学だけでなく心理学、歴史学、文学など多様な視点から考察します。そのため、昔話や伝説好きな方から、日本文化を深く知りたい方、現代コンテンツの背景や鬼の「本質」に触れたい読者まで、幅広くおすすめできる一冊です。
日常と隠された異界をつなぐ
鬼や異形の存在は、現代に生きる私たちが抱える「恐れ」や「不安」とどこかで繋がっているかもしれません。だからこそ、彼らの物語を読み直すことで、「見えない何か」と向き合う勇気や知恵を得ることができる――そんな読書体験を約束してくれるのが『鬼と異形の民俗学』です。
歴史と伝説を旅しながら、異界と現世の境界をそっと越えてみる。日本文化の奥深い闇と光、その両方に興味があるなら、ぜひ本書を手に取ってみてください。鬼退治の物語を通して、「人とは何か」「異形とは何か」を考える、知的で刺激的な読書――それは、あなた自身の中の「鬼」と出会う旅でもあるのです。

