*この記事は、『伊勢・出雲に秘められた聖地・神社の謎』(三橋健編、古川順弘執筆、2025年12月刊行、ウェッジ)から一部を抜粋したものです。
記紀に記された出雲神話
出雲大社に、なぜ大国主神(おおくにぬしのかみ)が祀られているのか。
大国主神は、『古事記』では、高天原(たかまのはら)を追放されて出雲に降臨したスサノオ(須佐之男命)の六世孫(子を「一世」として6代目)として記述されている。ところが、『日本書紀』の正文(神代上・第8段)では、スサノオ(素戔嗚尊)と出雲の女神クシイナダヒメ(奇稲田姫)のあいだに生まれた御子神ということになっていて、神統譜に異同がみられるが、いずれにしても、スサノオが出雲に天降りして以降に誕生した神であることには変わりはない。
そして、『古事記』と『日本書紀』ではともに大国主神を中心とする出雲を舞台とした神話が叙述され、それは出雲大社の縁起譚にもなっており、「出雲大社に、なぜ大国主神が祀られているのか」という疑問への回答となっている。
ただし、出雲神話は『日本書紀』には記述が少なく、『古事記』の方に圧倒的に豊富に記されている。そこで、ここでは『古事記』によりながら、大国主神が活躍する出雲神話のあらすじを紹介しておきたい。
まずは、大国主神の受難と、克服後の国作りを中核とする物語である。
〈若き日のオオクニヌシは、国譲り神話が語る出雲大社のルーツ因幡(鳥取県東部)のヤカミヒメ(八上比売)のもとへ求婚に向かう兄弟の八十神(大勢の神々)の従者として旅に出るが、途中の海岸で、毛をむしりとられた兎がうつ伏しているのに出くわした。兎はだました鮫の怒りを買って毛をもがれ、さらに八十神にだまされて海水を浴びて風に吹かれ、肌を傷めて苦しんでいたのだった。
そこでオオクニヌシが、真水で洗った体に蒲(がま)の穂の花粉をまぶせば治ると教え、兎がその通りにすると肌はもとに戻った。すると兎は、「きっとあなたがヤカミヒメを得るでしょう」と予言した。
