第四には、製品戦略だけでなく、ウーバーイーツや自社デリバリーサービス「マックデリバリー」等サービス面でも市場変化に対応している。これは一層のまとめ買いを促進している可能性もある。
第五には値上げと同時に割安感をアピールする施策も発表して低価格を求める顧客に対応している。例えば25年3月の価格改定に2つの発表をしている。
1)年間を通じてお得感をご提供する「トクニナルド」キャンペーンをスタート。キャンペーンの第一弾として、「マックフライポテト®」M・Lサイズの特別価格での提供や、マクドナルド公式アプリで人気メニューを100円(税込み)で購入できるスペシャルクーポンを日替わりで配信する。
2)「ハンバーガー」のセットが500円(税込み)で復活し、500円台のバリューセット®「セット500」のラインアップに加える。
背景にコストリーダーシップ戦略
経営戦略的観点から重要なことはマクドナルドが“コストリーダーシップ戦略”を取りつつ値上げをしている点である。“コストリーダーシップ戦略”は価格ではなく、コストに注目するものだ。規模の経済、範囲の経済、ビジネスモデル等を通じて業界内(もしくはセグメント内)で誰よりも低コストを維持できる企業だけが取りうる戦略である。
マクドナルドは規模の経済もコスト競争力を持つのだが、サプライチェーンのようなビジネスモデルでも先進的で質とコストの両立を図っている。14年に上海食品会社製チキンが期限偽装を行っていたことで大幅に売り上げを落とし、赤字を出した苦い経験も活かし、サプライチェーン全体の最適化を目指し、持続可能性を高めつつある。
その食材の調達は世界レベルで最適化されている。ビーフパティはオーストラリアおよびニュージーランド産で、フィッシュはアラスカ、ベーリング海で水揚げされたスケソウダラ、ポテトはアメリカ、カナダ産の肥料と与える水の量を適切にコントロールし農薬を最低限にとどめたジャガイモ、レタスは国内産を中心に世界的な管理基準であるGAP(農業生産工程管理)にマクドナルド独自GAPを導入して、製造の中で食の安全をより確かなものにしている。エッグは品質管理を行うGPセンター(Grading & Packing Center)でのひび割れや汚れをチェックだけでなく、殻の中まで安全を確認するといった対応もされている。
そして“コストリーダーシップ戦略”は結果として一番安い価格につながることも少なくないが、マクドナルドのように価格アップにつなげることもありうる。その結果、ファストフード業界の平均的な利益率は3~4%と言われており、規模の経済が効く産業ともいわれている中で、日本マクドナルドは売上高の成長と利益率の向上を両立させている。
20年~24年度売上高経常利益率は平均で10.6%であり、24年には連結売上高は4000億円を超え、売上高経常利益率が11.7%となった(フランチャイズ店舗売上を含めると24年度は売上8291億4000万円) 。
リーダーが価格を上げることで、業界全体としても追随しやすくなる。直接競合のモスバーガーも価格を引き上げているが、吉野家、CoCo壱番屋、スシロー等でも「価格競争」から「価値競争」への移行が進んでいると思われる。
マクドナルドの価格戦略は、単なるコスト転嫁ではなく、コストリーダーシップ戦略を背景に、グローバル価格との調整、プレミアムポジションへの移行を狙った段階的な価格改定、価格改定と合わせた多様な施策の組み合わせで消費者の離反を防ぐ等の、多角的な施策によって支えられている。
