世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年10月9日

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 9月19日付のワシントン・ポスト紙で、同紙コラムニストのヘンリー・オルセンが、トム・コットン上院議員が提出している中国の貿易待遇見直し法案を支持し、通商問題において中国との間で「飴と鞭の関係」を構築すべきであると論じている。

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 コットン上院議員が提出した法案は、米国がこれまで中国に与えてきた恒常的な最恵国待遇(注:米国の通商法では1998年以来「通常貿易関係〔normal trade relations〕」と称している)を改め、かつてのように最恵国待遇を与えるか否かを毎年審査するというものである。これは、米国の中国に対する立場の変化を反映するものである。米国は、1979年、カーター大統領の時に中国に最恵国待遇を与えたが、人権記録その他に基づき、最恵国待遇を与えるかどうかを毎年審査することとした。その後、経済界が中国との経済関係の拡大を強く望んだこともあり、米国政府は一方で中国のWTO加盟を推進し、同時に最恵国待遇の年次審査の廃止に努め、2000年10月、当時のクリントン大統領が、中国が米国と正常な貿易関係を結ぶことを許可する法案に署名し、最恵国待遇の年次審査が廃止された。中国は、2001年12月にWTOに加盟した。

 その背景には、中国を世界経済に組み込むことが中国の改革を推進させ、ひいては人権問題の解決にもつながるとの期待があった。中国の経済は、2001年以降急速に拡大した。中国のGDPは、2001年に1.3兆ドルと世界の4%であったものが、2017年には、12兆ドルと9倍に増え、世界のGDPの15%を占めるまでになった(MF統計)。近年、米国は中国経済の台頭を米国を脅かすものとみなすようになった。この間、中国による米国の知的財産権の盗取、産業スパイなどが大きく報じられた。コットン法案の提出の背景にはこのような米国の世論、議会での反中の機運の急速な高まりがある。

 コットン法案では、大統領が毎年中国の人権、奴隷労働、産業スパイ、知的所有権窃取などを点検し、それに基づき中国の貿易上の地位を決めるとされている。従来は点検の主な事項は人権と奴隷労働であったが、現在では奴隷労働はもはや問題とはされていない。産業スパイや知的所有権窃取が最近の米中の摩擦を反映して新しい点検事項となっている。大統領がこれらを点検して問題ないと判断すれば最恵国待遇が与えられるが、現在の中国の行動からして、これらが問題ないと判断される可能性は低いだろう。

 オルセンの論説は、コットン法案は中国政府に西側との調和を選ぶか選ばないかの選択を迫るものであり、西側との調和を選ぶことが中国国民の利益になると言っているが、習近平政権が西側との調和を選ぶことは考えられない。そうなれば、米国は中国に対し最恵国待遇を与えないこととなり、それ自体が米中の新たな摩擦の要因となるだろう。

 コットン上院議員は、新型コロナウイルスについても中国を厳しく非難している。議会の対中強硬派の急先鋒と目されている。そのコットン議員がトランプ後の共和党の最有力候補の一人とみなされているとのことである。米議会が中国にいかに厳しいかを象徴する話である。

  
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