世界中でライドサービスを展開するウーバー・テクノロジーズ。現在の規模は世界60カ国、700以上の都市でのサービス展開、1日あたりの利用回数は1500万回、サービス開始から現在までの総利用回数は100億回を超える。ライドシェア以外にもウーバー・イーツという食料品の配達、自転車や電動キックボードのレンタルなど、様々な分野に広がっている。
そのウーバーが現在着手しているのがウーバー・ヘルスと呼ばれる、医療目的のライドサービスだ。なぜウーバーがヘルスケアに参入したのかについて、ウーバー・ヘルス部門のトップであるダン・トリガブ氏がサンディエゴで開催された「コネクテッド・ヘルス・サミット」で語った。
まず、世界的な高齢化の問題。2015年時点で世界中の高齢者の数は5億5900万人だが、年に8%ずつ増加し、2020年には6億400万人となる。うち80%はなんらかの疾病を持つ。65歳以上で自分で運転が不可能、という人々は1000万人を超え、「移動が必要」なケースとして72%が挙げたのが「病院など医療機関への訪問」だった。しかし公共交通が利用できない地域もあり、病院などに公共交通機関で通う、というのは全体の15%だ。
この結果、米国だけでも医療機関にアポイントを取りながら行けなかった、という経験を持つ高齢者は30%にも上る。これによる損失額は年間1500億ドル、と試算されている。医師のアポイント時間が無駄になる、診察を受けないことで高齢者の健康状態が悪化し、のちにより多くの治療費がかかることなどを含めた総額である。
こうした事態に対応するため、米国では上院でも「メディケイド(高齢者向け医療保険)にウーバーやリフトなどのライドシェアの利用を必要経費として認めることを推奨する」ことが議論され始めている。州レベルではすでにフロリダ、テキサスが救急以外の患者搬送の手段としてライドシェアを導入し、その費用を保険で負担あるいは補助する法案を検討中だ。
ちなみに米国では救急車は有料で、保険によって救急車費用が出る場合と、そうでない場合がある。また救急車には消防署に常駐する公営のものの他、民間が運営するものも存在する。
救急車を呼んだものの、まず保険の提示を求められ、保険でカバーされない実費を請求されて救急車が利用できない、というケースも実際に存在する。救急車をタクシー代わりに、とはいかない環境である。
ウーバーはこの救急車ビジネスにも一部地域で乗り出しており、医療機関と提携する形で民間の救急車運営会社よりも低価格でのサービスを提供している。もちろん乗務員は救急救命の訓練を受けた者で、一般のライドサービスと同様にアプリにより位置情報などがチェックできるため、安心して利用することができる。