安価なEV、業界に先駆ける自動運転システムの実施、渋滞解消のためのトンネル、火星移住のためのロケット……次々に新しいビジネスを生み出し注目を集め続けるイーロン・マスク氏だが、すべての事業が順調というわけではない。中でも大きな失敗、と酷評されているのがソーラーパネル設置会社であるソーラーシティの存在だ。
ソーラーシティはもともとマスク氏の親族が起こした会社だが、経営不振のため2016年にテスラに26億ドルで買収され、テスラ傘下となった。マスク氏はこの理由について「テスラのEV、家庭用EVチャージャー、パワーウォールなど、テスラが展開する事業とソーラーパネルを合わせることでシームレスなサービスを提供できる」と説明したが、実質的には救済合併に他ならないものだった。
一時は全米2位のソーラーパネル設置会社として注目されたソーラーシティだが、急速な事業拡大とM&Aによる他企業の買収などが徐々に経営を苦しめることになった。2016年には従業員数は1万5000人を超えていたが、年末には1万2000人に。その後も厳しいリストラが続いている。
しかし、テスラという後ろ盾もあってか、企業相手のパネル設置など、徐々に業績回復を目指す努力は続いていた。その中のひとつがウォルマートとの契約だ。ウォルマートは全米240店舗にソーラーシティのソーラーパネルを設置するなど、独自のクリーン・エネルギー・イニシアチブを提供してきた。またウォルマートはテスラが発表した中型EVトラック、「セミ」を45台予約購入していることも知られている。
ところがその蜜月状態が破綻した。ウォルマートがテスラをソーラーパネルを巡り提訴したのだ。訴状によると「2018年11月の時点で少なくとも7店舗のウォルマートがソーラーパネルが原因とみられる火災被害を受けた」という。またウォルマートはテスラ側が定期的な点検として人員を派遣していたものの「基本的なソーラーパネルについての訓練を受けておらず、知識に欠けていた」ことも原因のひとつ、と糾弾している。
ちなみにテスラのソーラーパネル設置事業については同様のクレームが多いことが知られている。一般家庭への設置でも顧客レビューは5ポイント中3ポイント以下が圧倒的で、「サービスに来た従業員の知識不足、カスタマーサービスの質の悪さ、最初の宣伝文句と内容との違い」などに特に顧客の不満が集中している。
ウォルマートはテスラに対し、現在パネルが設置されている240店舗すべてからのパネルの撤去、ソーラーパネルが原因と見られる火災で被ったダメージに対する損害賠償を求めている。ただでさえ苦しい状況のテスラのソーラーパネル部門(ソーラーシティ)にとっては大きな痛手となる。
テスラの買収後もソーラーパネルの苦戦は続いており、今年の第二四半期では設置パネル総量は29MWにとどまった。一四半期の売り上げとしては過去最低となる。最盛期には一四半期に200MWの設置を記録したこともあるから、8割以上の減少である。