2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年8月27日

 WTOのアゼベド事務局長は5月突然辞任の意向を表明、8月末に退任する。11月に新たなWTO事務局長が選出されることが予定されている。

iSidhe / Paperkites / iStock / Getty Images Plus

 目下二人の女性、ナイジェリアのンゴジ・オコンジョ=イウェアラ(元蔵相、世銀副総裁)、ケニアのアミナ・モハメド(元教育長官、WTO大使)が有力視されている。立候補者は、7月中旬に一般理事会(議長NZ、選出過程を総攬する)で所信を表明、目下選挙運動をしている。9月初旬から一般理事会議長が加盟国の選好等を非公式、秘密裏に打診、集約を図り、最終的には加盟国のコンセンサス(WTOの決定原則)で選ぶ。11月頃には最終決定が期待されている。なお、今回選挙戦には韓国が兪明希産業通商資源部通商交渉本部長を擁立、対日関係との関連でも韓国メディアなどは強い関心を示している(対日牽制の発言も見られる)。日本はアフリカのナイジェリア、ケニアの候補支持と伝えられる。

 目下、貿易の自由化や貿易秩序の維持にあたるWTOの一般的な役割が下がっているが、これは残念なことだ。WTOは95年のウルグアイ・ラウンド以降25年、貿易の自由化やルール作りで主要な役割を果たせず今日に至っている。WTOの重要成果であった紛争解決についても、特に上級委に対する不満は米国から他国にも広がっている。日本も韓国による水産物輸入規制措置に関して下級パネルでは勝訴したものの、韓国が上訴、昨年4月上級委はまさかの日本逆転敗訴の決定を下した。上級委が協定上のマンデートを逸脱、ルール・メーキングに乗り出していると批判されている。紛争解決は、基本的には、条文に照らして判断すべきであり、書いていないことは加盟国が考えることである。規定の明確化が必要であれば、加盟国が交渉し、協定を改正するのが正道である。また、提訴が増大、本来二国間で解決すべきことが紛争処理にかけられ、政治化の問題も起きている。日本による半導体材料3品目の対韓輸出管理強化についての最近の韓国による提訴が典型例である。

 新事務局長に期待されることは何か。8月5日付のフィナンシャル・タイムズ紙社説‘The WTO’s role is more important than ever’は、「成功する事務局長のためには、貿易のテクニカルな詳細の専門家というよりも、むしろEU、米、中の政府と信頼関係を築き、ブローカー(仲介者)となることが必要だ。貿易の自由化の進展は究極的にWTOというよりも加盟国の意欲によって決まる。機構の事務局長はこれら加盟国を纏めるうえで重要な役割を持っている」と述べている。つまり、次期WTO事務局長には貿易の技術的な詳細の専門家よりも加盟国のブローカーの役割を果たせる人物が必要だという指摘である。これは、極めて的確である。こうした考えを基礎に、11月には良い事務局長が選出されることを期待したい。WTOが重要であることに変わりはない。適切な事務局長の下、役割を回復することが望まれる。

  
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