Washington Files

2020年8月3日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(AP/AFLO)

 ポンペオ米国務長官は先月23日、歴代政権の対中国政策を転換し「対中包囲網」を提唱する重要演説を行った。だが、トランプ政権の過去3年半余の外交実績を振り返ると、一貫性に乏しく、多くの矛盾をさらけ出している。

 ポンペオ長官が、ロサンゼルス近郊の「ニクソン大統領図書館・博物館」で行った中国政策に関する外交演説の重要ポイントは以下のようなものだった:

  1. ニクソン大統領は今から50年前の歴史的訪中で、中国との関与政策を打ち出したが、自由と民主主義に向けた中国国内の変革をもたらさなかった。もはや「盲目的対中関与」という古びたパラダイムとは決別しなければならない。
  2. 中国共産党政権はマルクス・レーニン主義体制であり、習近平主席は破綻した全体主義イデオロギーの信奉者だ。世界の国々は中国を「普通の国」として扱うことをやめ、中国共産党に対する見方を変えることから始める必要がある。
  3. 自由主義諸国は自由を守るために戦わなければならないが、マリオット、アメリカン航空、さらにはハリウッドのエンターテイメント企業など含め世界中の多くの企業が、中国の怒りを避けるため、台湾との関わりを解消しようとしている。しかし、今こそ、自由主義諸国は自国の主権と経済繁栄を守り、中国共産党の触手から決別しなければならない。
  4. こうした中国との戦いは、取り残されることを恐れるいくつかの小さな国々にとって、困難を伴うことは事実であり、NATO(北大西洋条約機構)諸国すらも、中国市場へのアクセス制限を恐れ、香港問題で立ち上がろうとしない。われわれは単独でチャレンジに向き合うことではできないことは明白であり、国連、NATO、G7、G20などとともに団結して行動を起こすことが求められる。

 以上のような、近年の中国の行動パターンと体制についてのポンペオ長官の厳しい認識はそれ自体、概ね、当を得たものと言える。また、その中国と向き合うべき自由主義諸国にとっての課題への言及についても、あながち理不尽なものではない。

 問題は、トランプ政権発足以来の対中外交の軌跡だ。

 まず、トランプ大統領自身の対中国姿勢、習近平主席評価が定まらず、首尾一貫性を欠いている点がある。

 大統領は就任直後の2017年2月、習近平氏との初の電話会談を行った際、中国側のかねてからの主張である「一つの中国」の立場への支持を早々と表明、これに気を良くした習近平氏は同年4月、早速、訪米し、フロリダ州のトランプ氏自慢の別荘で親密な首脳会談を行った。トランプ氏はその際、「中国の偉大な指導者である習近平主席を大いに尊敬している」と述べ、対中個人外交への自信を吐露した。

 しかし、翌年3月には、「中国の経済的侵略」をターゲットにした大統領覚書に署名、その中で中国からの500億ドル相当の輸入品に対する課徴金制裁措置を発表した。

 その一方で、大統領は習近平を「友人」と呼び続け、北朝鮮・核問題の解決のため、中国の力添えへの期待を表明してきた。自らのツイートでも「習近平と私は常に友人。両国間には貿易問題などがあるが、中国は関税撤廃するだろう。知的所有権問題も相互のディールで解決できる。両国には偉大な未来が待っている」(2018年4月8日)などと述べた。

 そして同年11月には自らが訪中、両国首脳会談で、総額2530億ドルにも及ぶ米中貿易拡大で合意している。

 第二に、ポンペオ長官は「中国の経済的侵略」から自由主義諸国の経済的繁栄を守るための結束を呼びかけたが、トランプ政権は、その結束の象徴とも位置付けられてきた「環太平洋経済連携協定」(TPP)からの一方的離脱に踏み切った。TPPは中国を除くアジア太平洋主要諸国12カ国が中国の経済拡張路線に対抗する目的でオバマ前政権時代に結集し、合意に達したものであり、今後、アジア太平洋圏における自由主義諸国間の経済発展に大きな期待が寄せられていた。しかし、オバマ氏の実績を徹底して否定するトランプ大統領は、共和党議会指導者の反対をよそにTPP破棄を決断した。

 言うまでもなく、これを大いに歓迎したのは、ほかでもない中国だった。

 第三に、トランプ政権は、オバマ前政権が打ち出した「アジアへの回帰 Pivoto to Asia」戦略まで反故にしてしまった。その後、今日に至るまで、明確なアジア戦略は何ら作成されず、場当たり的な外交・安全保障政策に終始してきている。

 「アジアへの回帰」戦略はもともと、今世紀に入り、アメリカの世界戦略の重心を欧州から思い切ってアジア太平洋にシフトする中長期的な極めて重要な米外交・安全保障政策のスタンスであり、その根底には、世界第2位の経済軍事大国として台頭してきた中国を将来にまで見据えたものだった。その一環として打ち出されたのが、TPPだった。

 ところが、トランプ大統領はその中国と向き合うアジア同盟・友好諸国との関係強化に乗り出すどころか、逆にこれを揺さぶりかねない言動を繰り返している。わが国や韓国に対し、「安全保障ただ乗り」批判を繰り返し、駐留米軍費用の大幅増額を要求してきているのはその一例にすぎない。大統領は日本や韓国が大幅な防衛分担増に応じない場合、将来的な米軍撤退も取引材料にする意向さえちらつかせてきた。

 このような、アジア諸国に不安をかきたてるトランプ政権の姿勢は、中国からみてプラスこそなれ、決してマイナス材料ではない。げんに、中国人民解放軍が南シナ海、尖閣諸島周辺での軍事活動をにわかに活発化させてきたのは、トランプ政権発足後だ。

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