Washington Files

2020年7月8日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

2日、ホワイトハウスで行われた米国製品をPRするイベントに参加したトランプ大統領(REUTERS/AFLO)

 11月米大統領選でバイデン民主党候補に大きく水を開けられつつあるトランプ大統領が、あろうことか、途中ギブアップするとの観測が共和党陣営でささやかれ始め、ホワイトハウスが火消しに躍起となっている。

 騒ぎの発端となったのは、先月26日、よりによってトランプ政権を支持してきた Fox Business Networkの「特報」ニュースだった。同テレビ局のシニア政治担当記者ら3人が連名で報じたもので、以下のような内容だった:

 「最近の精彩を欠く一連の世論調査結果を踏まえ、共和党陣営の選挙プロたちはトランプ再選見込みについていら立ちを強めている。中には、もしこのまま大統領支持率のリバウンドがないならば、彼は途中ドロップアウトもありうるという可能性を初めて提起する者もいる」

 「ある共和党幹部は FoxNews に対し、『まだ結論づけるのは早すぎるが、もしこのまま、支持率低下が続けば、大統領が途中脱落のシナリオがありうる』と語っている。別の関係者は『そのような噂は耳にしているが、当を得ているとは思わない。ただ、トランプは、自分でもはや勝ち目はないと信じた場合は、レースを断念することも推測される」

 「この週末に再選に関わる複数のメジャー・プレイヤーと話したところ、ある人物はトランプの今の心理的状態について‟fragile” (壊れやすい)と表現した。今のところ、政敵のバイデンは自宅地下にこもったまま立場をはっきりさせず、有権者も焦点を絞り切れていないため、トランプが追いつく時間は残されている。ただ、このような観測が出ること自体、共和党幹部たちが、11月選挙でトランプが敗退するだけでなく、上院も民主党に明け渡す結果になることについて緊迫感を抱いていることを示している」

 トランプ再選委員会はただちに、猛反発し、以下のようなコメントを出した:

 「これは、一連のフェイクニュースの最たるものだ。誰もが熟知している通り、メディアの大統領支持率調査はいつも間違っている。彼らはあえて歪曲したイメージを作り出すために、共和党支持層を過小評価し、『投票意向支持者likely voters』の存在を勘案していない。2016年選挙でもそうだったが、もし、彼らの数字が正確だったとしたら、今頃、ヒラリー・クリントンがホワイトハウスに居座っていただろう」

 トランプ氏がレースを途中で断念するとの観測が出たのは、今回が初めてではない。昨年9月には、トランプ政権下でホワイトハウス広報局長の要職にあったアンソニー・スクラムチ氏は米誌インタビューで「トランプは小鳩程度の軽い存在であり、そのうち、芳しくない各種世論調査支持率で受ける屈辱を自分でコントロールできなくなる。よって、2020年3月までにはドロップアウトするだろう」と踏み込んだ発言をしていた。

 もちろん、この予測は外れたが、同じ3月からは、誰も予想もしなかったコロナウイルス感染が全米に拡大し始め、その後、短期間のうちに米国経済に大打撃を与える未曽有の深刻な公衆衛生危機に発展した。この間、失業者は4500万人に達し、対応が後手に回ってきた連邦政府の失政に対する国民の不満も高まりつつあった。

 さらに、白人警察官が暴行を振るい黒人男性を死亡させた事件をきっかに各州に一気に広がった人種差別反対運動に対しても、沈静化どころか人種間対立をかえって煽るような言動を繰り返してきたことなどから、大統領への支持率は昨年以上に低下し始めてきた。

 こうした状況下で再浮上してきたのが、最近の「レース脱落」説だった。

 そして今月2日には、先の FoxNews「特報」に加え、かつてビル・クリントン氏を大統領選で勝利に導いた立役者として知られるベテラン選挙プロのジェームズ・カービル氏も、MSNBCテレビ・インタビューで「大統領がレースを途中断念する確率は、再選を果たす確率よりはるかに高い」として次のように語っている:

 「最近の無様な(支持率の)数字を見れば明らかだが、彼はあまりにも後位に取り残されており、私から見れば、これ以上、レースを続けても意味がない。途中で脱落することも十分ありうると思う。ミッチ・マコーネル(上院院内総務)、リンゼイ・グラハム(上院議員)ら、これまで3年9カ月、トランプとお付き合いしてきた共和党首脳連中も、おそらく、レーバーデー(労働者の日、9月第1月曜日の休日)までには、このまま泥沼に引きずり込まれていくのを避けて袂を分かとうとするだろうが、これもうまく行くかどうかはわからない。とにかく過去10日間の動きを見れば、大統領はウイルス対策もさじを投げ、人種差別反対運動も収拾できず、すべてお手上げ状態だ」

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