Washington Files

2020年7月1日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(tarabird/gettyimages)

 伝統的に共和党政権支持だったウォール街がここに来て、早々と「バイデン民主党政権」誕生に備えた動きを見せ始めている。支持率低迷が深刻化するトランプ大統領への失望感の現れとみられている。

 「トランプ政権の減税政策に喝采を送ってきたウォール街のCEOたちが最近になって、態度を変え、『バイデン大統領』誕生を見込んだ準備にかかっている」―米CNBCテレビは去る25日、ニューヨークを拠点とする金融、投資家、ロビイストたちの間で、失政続きのトランプ大統領に見切りをつける一方、「バイデン勝利」を予想する見方が広がっていると「独材ニュース」として報道した。

 変化の具体的裏付けとしてCNBCは以下の点を挙げている:

  1. 有力投資家の一人、マイケル・ノボグラッツ氏が語ったところによると、5カ月前、投資関係会社の経営者ら10人と夕食をとった際には、「トランプ再選」予想者8人、「バイデン勝利」予想者1人、「態度保留」1人だった。ところが、コロナ感染危機以来、失業者激増と景気激変により雰囲気は一変、今の時点で同じ質問をした場合、確立は50対50、あるいは60対50で、バイデン氏が有利とする見方になりつつある。
  2. 共和党系ロビイストの一人はインタビューで「今や、ウォール街の金融・投資家の50%以上が『バイデン勝利』を予想し始めている。ただ、彼らは例外なく、バイデン新大統領には大増税だけはしないでほしいと願っている」と語った。
  3. 金融コンサルタント会社Signum Global社のチャールズ・マイヤーズ社長は、「バイデン候補が勝利するだけでなく、上院選挙でも民主党が多数支配を獲得する」とした上で、クライアント企業経営者に対しては、『次期民主党政権での企業増税を覚悟しておく必要あり』と警告している。
  4. 財界からも5月に入り、バイデン選挙陣営、民主党全国委員会(DNC)に対する政治献金が増え始め、同月1カ月の献金総額は8000万ドルに達し、トランプ陣営に対する政治献金(7400万ドル)を初めて上回った。その後も証券、投資業界からのバイデン陣営への献金はさらに増え始めており、6月1カ月間では1億ドル突破が見込まれている。
  5. こうした流れの中で、ベテラン経営者たちの間でも、「バイデン新政権誕生」を前提に早くも、ホワイトハウスへの人脈づくりの動きが始まっている。

 米財界はこれまで、トランプ政権下の経済政策について①オバマ前政権当時、30%半ばだった法人税を21%にまで大幅減税した②工場排煙、自動車排気ガス、水質汚染などの厳しい規制を多岐にわたり緩和してきた―などを理由に現政権を圧倒的に支持してきた。一方、バイデン候補はこれまでの選挙戦を通じ、法人税28%への引き上げのほか、個人所得税についても、年収40万ドル以上の所得者を対象とした「富裕税」増税の方針を打ち出してきたことから、「トランプ再選」への期待が高まっていた。

 ところがここにきて、企業経営者たちの間でも、11月大統領選挙に対する展望が顕著に変化し始めた。

 その背景として、以下の諸点が挙げられる。まず第一は、いうまでもなく、トランプ大統領支持率の低下だ。中でも、注目されるのが、接戦州13州を対象とした最新世論調査におけるトランプ氏劣勢ぶりだろう。

 トランプ寄りとされるFox Newsテレビが去る6月25日発表した調査結果によると、ノースカロライ州でバイデン候補47% 対トランプ氏45%、テキサス州でバイデン候補45%対トランプ氏44%、ジョージア州でバイデン候補47%対トランプ氏45%、フロリダ州でバイデン候補49%対トランプ氏41%と、南部拠点4州のいずれにおいても、バイデン候補が最近になって逆転し、リードしている。

 同じく同日付のニューヨーク・タイムズ、シエナ大学合同調査結果によると、前回選挙でクリントン民主党候補に競り勝ち当選の決め手となった中西部3州でも、ウイスコンシン州でバイデン候補49%対トランプ氏38%、ミシガン州でバイデン氏47%対トランプ氏36%、ペンシルバニア州でバイデン氏50%対トランプ氏40%と、いずれもかなりの差でバイデン氏がリードしていることが明らかになった。さらにアリゾナ州でもバイデン氏が7%差で優位に立っている。

 その前日の24日発表されたキニピアック大学調査結果でも、「トランプ再選」のための絶対生命線とされるオハイオ州においても、1%差ながら、バイデン氏に差をつけられた。

 さらに同27日付の政治専門メディア「Politico」の分析結果によると、アイオワ、ミネソタ、ニューハンプシャー、ニューメキシコ各州でもトランプ氏が苦戦を強いられているという。

 第二は、いったん収束に向かいかけたかに見えたコロナウイルス感染が再び勢いを取り戻し始め、しかも、トランプ氏の選挙地盤である南部諸州に拡大しつつある点だ。

 全米感染者数は去る6月27日時点で、1日当たり4万4782件と2日連続で過去最多の記録更新となったが、トランプ支持者の多いフロリダ、ジョージア、サウスカロライナ、ネバダ、テキサス各州では、連日最多の記録更新が続き、とくにテキサス州では27日1日だけで5523件と15日間連続でこれまで以上に増え続けている。

 このため、全米各州の中ではいち早く緊急事態宣言を解除、経済活動再開に踏み切った共和党のテキサス、フロリダ両州知事は6月末までに、再び市民へのマスク着用呼びかけ、バー、ナイトクラブなどの一時閉鎖措置に踏み切った。ペンス副大統領も、フロリダ、アリゾナ州などで予定していた演説集会出席を見送った。

 財界では、トランプ政権が当初からコロナ危機を軽視し続け、対策が後手に回った結果が今日の深刻な事態を招いたとして、批判の声が出始めると同時に、11月選挙前までに期待していた景気の「V字回復」についても悲観的見方が広がりつつある。

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