Washington Files

2020年7月1日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

学生時代から今日に至るまで、ほとんど本すら読んだこともない

 第三点目に、白人警官が黒人男性に暴力をふるい死亡させた事件をきっかけに全米に広がった人種差別反対運動についても、トランプ政権は沈静化どころか、かえって人種対立をあおるような対応に終始、そのことが大統領支持率を一段と低下させる悪循環を招いた事実がある。

 とくに今回の人種差別反対運動では、20世紀後半に盛り上がった黒人を中心とした反政府デモとは異なり、各州で圧倒的に多くの白人たちが参加、トランプ政権批判を強めていることから、大統領選挙への影響も必至であり、財界にとっても無視できない大きな社会問題となりつつある。

 上記のような米財界の最近の空気を最も適格に反映したのが、これまでトランプ政権支持を鮮明にしてきたウォールストリート・ジャーナル紙の去る6月25日付社説だ。

 同紙は次のように述べている:

「トランプ氏は、最新のどの世論調査でも明らかなように、いずれも大統領再選に失敗したジョージ・H・ブッシュ、ジミー・カーター領域すなわち支持率40%あるいはそれ以下に落ち込んでいる事実を認めようとしない。本人が『オバマケア』廃止を唱えて一時は同レベルまで支持率が低下しながらも、その後は、減税、経済活性化で支持を持ち直した2017年と今日とは同じではない。選挙まであと4カ月を残すのみとなり、今や有権者は彼がどんな人物かを熟知しているが、大統領は最悪の態勢に依拠している」

「ひと頃、パンデミックの状況説明の場では、大統領としての指導力を発揮するどころか、連日のように報道陣とのけんか腰のやり取りに終始し、時間を浪費してきた。最近では、経済再開後の明るい未来に向けたロードマップを提示することなく、コロナウイルス感染拡大そのものにも言及しなくなった。黒人男性の死によって顕在化した人種問題についても、国民は対立・憎悪を求めていないにもかかわらず、大統領は指導力が必要な国家的時期について判断を誤った」

 「トランプ氏にとって残された時間はあまりない。有権者の35%の支持基盤は揺らぐことはないとはいえ、3年半前には支持に回った無党派層は、過去2カ月の間に離反しつつある。この中には都市近郊在住の婦人層、無党派、高齢者層が含まれており、大多数の有権者が、これ以上のリスクをあと4年さらに受容できるかどうかの決断を迫られている」

 「しかし、トランプ氏はいまだに、自分のあと4年の在任問題以外に、2期目の政権としての課題やメッセージについては何ら示していない。彼は課題に取り組むべき自覚や自己規律を欠き、あるいは低下一方の支持率にほんろうされているのかもしれないが、もしそうだとしたら、このまま敵に塩を送り敗北の道をたどることになるだろう」

 だが、トランプ氏にとって最大の課題は、こうした率直な指摘や新聞論調に、自ら目を通し、思考をめぐらすかどうかだ。実際のところ、学生時代から今日に至るまで、ほとんどまともな本すら読んだこともなく、大統領になってからも、毎朝、情報長官が世界情勢をまとめた「デイリー・ブリーフ」と呼ばれる重要書類持参で臨む“ご進講”の際も、ページをめくることなく、ただ口頭での説明だけで済ませるという性格だけに、その可能性はほとんどゼロといっていいだろう。

  
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