Washington Files

2020年6月22日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 11月米大統領選に向け、ロシア、中国の情報機関が再び何らかの介入工作に乗り出すのではないかとの見方が米政府、情報当局者の間で広がっている。

(masterSergeant/gettyimages)

 「ロシアや中国は2016年大統領選の時と同様に、再び介入工作を仕掛けようとしている。しかし、われわれは前回の経験から多くを学んでおり、今回は選挙結果の高潔性をきちんと担保できると確信している」

 SNS最大手フェイブック共同設立者のマーク・ザッカーバーグ氏は去る5月21日、英国BBCテレビとのインタビューでこう語り、外国機関がSNSを通じてかく乱情報を流し、11月大統領選の選挙結果を左右することのないよう万全のセキュリティ対策を講じつつあることを明らかにした。

 ザッカーバーグ氏のこの発言は、2016年の米大統領選挙でロシア情報機関がフェイスブックなどを悪用しヒラリー・クリントン民主党候補を非難中傷する欺瞞情報を流した結果、トランプ候補の当選に一役買ったとの集中的批判を浴びてきたことから、今回は事前に予防線を張り、名誉挽回と信頼醸成を企図したものと受け取られている。

 実際に、ダン・コーツ米国情報長官(当時)は昨年1月30日、米上院情報活動委員会公聴会で、CIA(中央情報局)、DIA(国防情報局)、NSA(国家安全保障局)、FBI(連邦捜査局)など米側各情報機関による総合的見解として「ロシアと中国は2020年米大統領選への介入を画策している。しかし、われわれはとくに2016年選挙へのロシアによる介入工作から多くを学んでいる」と証言、警戒を強めていく姿勢を明確に打ち出した。

 さらに今年に入り、コーツ長官退任後、後任のジョセフ・マクガイア長官代行は去る2月13日、米下院情報活動委員会での秘密聴聞会で証言し「ロシアは11月の大統領選でトランプ再選に向けて対米情報活動に着手している」と具体的に言及したことが、ニューヨーク・タイムズ紙のスクープ記事で明らかにされた。

 米情報庁は前回2016年米大統領選についても、各情報機関から得た情報を総括した結論として昨年末、「ロシアがプーチン大統領指揮の下、トランプ候補当選を企図した対米工作を行った」と断じたばかりだったが、トランプ大統領は「わが国の情報機関は信用できない」としてこれを言下に一蹴してきた。ロシアの手助けで当選したとの評判が拡散することを極度に恐れたためだった。

 しかし、今回も前回同様に、ロシアがトランプ再選に向けた介入工作に乗り出しているとマクガイア長官代行が秘密証言したことに、トランプ・ホワイトハウスは猛反発、大統領自身も激怒するとともに、ニューヨーク・タイムズ紙報道の数日後には、マクガイア氏を更迭処分する騒ぎとなった。

 ロシアがトランプ氏の再選を支持する理由については、①米民主党はオバマ前政権時代からロシアによるクリミア併合などに反発を強めてきた②民主党議員の多くがプーチン大統領による軍拡路線を批判し続けている③トランプ大統領はプーチン大統領と個人的に親密な関係を維持してきた―などが挙げられる。

 特に前回、ロシアがトランプ氏支援工作に乗り出した背景として、ヒラリー・クリントン候補が選挙期間中から、人権問題などでロシア批判を強めていたほか、トランプ氏については実業家時代から、ロシア国内での不動産事業展開などを通じ、深い関係にあったことなどを盾に、大統領に当選した暁には、アメリカの対外政策をロシア側に有利な方向に誘導できるとの打算があったからとみられている。

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