去る5月20日、英国からホワイトハウスに衝撃的ニュースがもたらされた。世界経済長期予測で定評のある「Oxford Economics」(本部:英国オックスフォード)が、コロナウイルス危機によるアメリカ経済への深刻な影響と11月大統領選の趨勢を分析した結果を踏まえた、「トランプ大敗」の不吉な予測発表だった。
予測モデルの主な内容は以下のようなものだ:
- 大統領はコロナ危機による不況のあおりを受け、獲得票数は投票総数の35%にとどまり敗北する
- 大統領が有利に立つには「経済的ミラクル」以外に何も存在しない
- バイデン民主党候補が、2016年選挙でトランプ氏を勝利に導いたミシガン、ウイスコンシン、ペンシルバニア各州選挙人を獲得する
- バイデン氏はさらに、中西部のオハイオ、アイオワ、ミズーリおよび、ノースカロライ州でも勝利する
- この結果、選挙人獲得数ではバイデン氏328人に対し、トランプ氏は210人にとどまり、歴史的地滑り的な敗北となる
- 米国経済は1930年代大恐慌最悪時よりさらに深刻化、個人所得はコロナ危機前より6%近く下落し、13%以上の失業率とともに一時的なデフレを招来させることから、投票が行われる11月時点でトランプ氏にとっては克服しがたい障害に直面する
「Oxford Economics」は昨年秋に発表した予測モデルではトランプ氏の獲得票数を投票総数の「55%」と試算、「大統領再選」を予測していたが、今回「35%」に大幅修正した最大理由として、まったく予期しなかったコロナ危機がもたらした経済不況要因を挙げている。
また、同研究機関は米大統領選について1948年以来、事前に同様の予測モデルを毎回発表してきており、1968年(ニクソン勝利)および1976年(カーター勝利)の2回の選挙を除きすべて的中させてきたことでも知られる。
同レポートの内容は即日、CNNテレビ、デジタル・ビジネス誌「MarketWatch」など多くの米メディアのほか、「The Independent」、「The Daily Mail」など海外紙でも大きく報じられた。
これに対し、トランプ再選委員会側は「大敗予測」をただちに一蹴、サラ・マシューズ副報道官が以下のようなコメントを発表した:
「前回2016年の時も世論調査は間違いを犯し、米国民の心をつなぎとめるトランプ氏の力量を過小評価してきた。今年11月の選択肢は明確だ。経済を再び盛り上がらせることのできる候補はトランプ大統領一人だけだ」
しかし、トランプ陣営にとってきわめて不都合なニュースは、これのみではなかった。
トランプ氏がアメリカ主要テレビ局の中で最も信頼を寄せる右派系のフォックス・ニュースが翌21日発表した登録済み有権者を対象とした最新世論調査結果(5月17-20日実施)も、ある意味でボデー・ブローにもなりかねない内容だった。
そのハイライトは次のようなものだった:
- 大統領に対する支持率では「支持」が44%に対し、「不支持」は54%で、前回調査(4月4―7日)と比べ「不支持」は5%増加した
- 「好感度」比較ではバイデン氏が48%(前回も48%)だったのに対し、トランプ氏は43%(前回は47%)とさらに低落した
- 「両候補のうちどちらに投票するか」について聞いたところ、「バイデン」と回答した人は48%で前回より6%も増加したのに対し、「トランプ」と回答した人は40%で、前回(42%)をさらに下回る結果となった
- コロナ危機に対する大統領の取り組みについては、「支持」が43%(前回51%)だったのに対し、「不支持」は55%(前回48%)と12%も上回った
過去何回にもわたるフォックス・ニュースによる大統領支持率調査では、ギャラップ社や他のテレビ局調査にくらべ、おおむね高い大統領評価が示されてきただけに、今回トランプ氏にとって一段と厳しい内容が盛り込まれたことを他のメディアも意外感をもって大きく報道している。
それだけトランプ・ホワイトハウスにとっては、予想外の痛烈パンチとなったことだけはたしかだ。
早速、大統領はこのフォックス・ニュース世論調査結果に激しくかみつき、翌日にはあいつぐ自らのツイートで以下のような怒りをぶちまけた:
「多くの視聴者は今回の世論調査結果に異議を唱えている。フォックス・ニュースは、11月3日に自分を再選させ、共和党に援助の手を差し伸べることを何もしようとしない……同局には真に偉大な人物も何人かいるにはいるが、ニール・キャブート、リチャード・グッドシュタイン、ドンナ・ブラジルといった屑どもも大勢いる。奴らは民主党のセールス・トークを繰り返すのみで最悪だ。すべていいことを帳消しにしてしまっている」
大統領は過去数カ月前から、フォックス・ニュース世論調査にときどき不満を漏らし始めていたが、今回だけはその怒りが頂点に達した感がある。