Washington Files

2020年5月11日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 コロナ危機以来、支持率低迷に悩むトランプ大統領だが、果たして11月大統領選での勝算は―。そこで最近、ワシントン政界でうわさされているのが、トランプ陣営による起死回生の二つの“奇策”だ。

 欧州各国指導者がコロナウイルス感染危機という未曽有の“戦時体制下”で70~80%台の支持率を維持しているのとは対照的に、自ら「戦時大統領」を名乗り、連日ホワイトハウスのブリーフィングで奮戦ぶりをアピールしてきたトランプ氏だけは、支持率40%台前半と、さっぱり評価の上がらない日々が続いている。

 世論調査機関「Morning Consult」が登録済み有権者を対象に、11月大統領選で、再選目指すトランプ氏とバイデン民主党候補のどちらを支持するかを尋ねた最近調査(5/2ー5/3実施)によると、「トランプ支持」が46%だったのに対し、「バイデン支持」が53%と、トランプ氏劣勢が浮き彫りになった。

 同じく「Rasmussen」調査(4/29ー5/3実施)でも、「トランプ支持」44%、「バイデン支持」53%と、ここでもバイデン氏優勢は変わらなかった。

 しかし、トランプ氏にとって最も衝撃的だったのは、「トランプ大統領再選委員会」および共和党全国委員会(RNC)がそれぞれ最近、別途に実施した非公開の世論調査結果だった。

 CNNテレビ、およびワシントン・ポスト紙などの報道によると、トランプ氏が前回大統領選で“番狂わせ”を演じ勝利したミシガン、ウイスコンシン、ペンシルバニア3州はじめ、今回も接戦が予想される17州に絞った有権者調査で、いずれもかなりの差でバイデン氏に水をあけられていることが判明した。

(TheaDesign/gettyimages)

 これらの結果を深刻に受け止めたブラッド・パーズケール選対本部長、ロンナ・マクダネルNRC委員長らは先月22日、ホワイトハウスで大統領および数人の側近たちと善後策を協議したが、大統領は「調査数字は信用できない」「バイデンに負けるはずがない」と激怒、とくにパーズケール選対本部長に対しては、「告発」の姿勢さえ示唆したという。

 一方、感染者数、死亡者数とも世界最悪の状況が続くアメリカのコロナウイルス危機は、欧州諸国とくらべ収束の兆しがまだほとんど見えず、経済活動再開の具体的めども立っていない。 すでに未曽有の失業者を生み出し、今年のGDPも二ケタ台のマイナス成長も予測されるなど、このままでは、「トランプ再選」の前途はかなり厳しくなることは必至だ。

 そこで最近、トランプ陣営の“窮余の策”として話題に上がり始めたのが、①「投票抑圧voter suppression」②大統領選投票日延期、の二つだ。

 まず「投票抑圧」だが、その名の通り、ライバル政党支持者ができるだけ投票所に行けない、行きにくい制度や環境を合法、非合法な手段で講じる、広義の「組織的選挙妨害戦術」を意味する。主としてアメリカで1960年代以降、公民権運動の盛り上がりとともに民主党支持者が多い黒人、ヒスパニックなどの有色人種、女性層の間での政治参加を抑制するため、共和党が展開してきたさまざまな手法をさすことが多い。

 具体的には過去にも、州によって共和党知事(全米50州中26州)の強権により、投票時間の短縮、投票者への運転免許証提示義務付け、開設投票所数の削減、投票者事前登録制度の厳格化などの措置が講じられ、結果的に民主支持者の多い日雇い労務者、車を所有しない学生や低所得者、過疎地居住者、ベビーシッター、ホテル・メイドなどが投票所に行けなくなるケースが少なくなかった。

 これらに加え、今年の大統領選挙で一躍関心を集め始めたのが、「郵便投票voting by mail 」をめぐる民主・共和両党間の激しい議論だ。とくに、コロナウイルス危機の影響により、各州では集団感染を抑制するため、できるだけ投票所に足を運ばず、郵便による事前投票を重視する動きが高まりつつある。

 これに対し、猛烈な異議を唱えているのが、共和党だ。これまで過去の大統領選挙結果分析によると、各州において投票率が低ければ低いほど、共和党が有利となる歴然たる結果が出ているからにほかならない。

 トランプ大統領自身も特に先月以来、ツイッターを通じ「郵便投票は、市民が自ら投票所に足を運ぶことによって候補者を選択する真の民主主義に反する」「票集計の過程で不正のリスクが高まる」などとして、郵便投票を繰り返し激しく攻撃してきた。

 さらにトランプ政権内部では、郵便投票の機会を少しでも委縮させる方策として、赤字経営が続いている「郵便公社」をいったん破産状態に追い込み、11月3日の投票日前後に郵便局員、配達員の集配作業が困難となるシナリオまで議論の俎上に上がっているといわれる。

 実際に大統領も去る4月、コロナウイルス危機に関連して「緊急財政援助法」に署名した際、郵便公社に対しては100億ドルの「借款」は認めたものの、無償援助の対象から除外した。このため、同公社を管轄する米下院「郵便事業小委員会」のキャロライン・マローニー小委員長(民主)は「借金ではなく緊急に公社を支えるための資金援助が求められる。さもなくば、6月にも運営資金枯渇の深刻な事態を迎える」と警告している。

 さらに、「緊急財政援助法」の中には、大統領選に備え、投票日(11月3日)から「15日間」遡る郵便投票を含む事前投票のための各州向け準備資金分配も盛り込まれているが、上下両院の共和党議員の多くがこれに反対、同条項削除の動きまで出ている。

 もうひとつ、うわさされているのが、コロナウイルス危機を理由とした大統領選そのものの先延ばしか、混乱状況の醸成だ。

 就任以来、「好調経済」を売り物としてきたトランプ大統領としては、コロナウイルス危機終息後、できるだけ早い機会に大胆な経済再建策を打ち出し、国民のムードを一変させることによって大統領選挙に臨みたいところだ。しかし、そのためには残された時間は限られており、焦りの色は隠せない。5月に入ってからも、大統領はホワイトハウス・ブリーフィングで「早く経済を再開させる必要がある」と繰り返し主張しているのも、その表れに他ならない。

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