空母内での相次ぐコロナウイルス感染拡大による米海軍「前方展開戦略」への影響が懸念される中、その間隙を縫うかのように中国軍の活動が活発化してきた。米国防総省(ペンタゴン)も不安打消しに躍起だ。
米海軍が今、最も危機感を募らせているのが、広大な太平洋を守備範囲とする第七艦隊主戦力「空母打撃群carrier strike group」(CSG)でのコロナウイルス感染拡大だ。
海軍司令部が13日までに公表したところによると、グアム島に停泊中の「セオドア・ルーズベルト」(乗員4865人)ではすでに、解任されたクロジア艦長以下、585人が感染テストで「陽性」であることが確認され、島内の米軍病院で治療を受けている。そのうちの1人は症状が重く、集中治療室(ICU)に入っていたが、同日、死亡が確認された。これに対し、すでに下船・退避中の乗員のうち3170人は「陰性」が判明、残り1164人については「判定待ち」という。
ジョン・ハイテン統合本部副議長は「状況がここまで至らない前に収束に向かい、感染者がゼロになることを期待したが、そうなりそうもない」として、同空母が深刻な状態にあることを認めた上、「さらにほかの米海軍艦船でも感染発生が起こりうることを覚悟しておく必要がある」として憂慮すべき事態になりつつあることを示唆した。
まだ感染テスト結果が出ていない残り乗員の中からも、ある程度の「陽性」感染者が出る可能性は否定できず、もし全乗員の2割近くが病院に収容される事態となった場合、同空母機動部隊の今後の展開自体、見通しが立たなくなる。
さらに、横須賀基地に停泊中の「ロナルド・レーガン」、ワシントン州プレマトン基地で出航待機中の「ニミッツ」、カリフォルニア州サンディエゴ基地に停泊中の「カールビンソン」の空母三隻とも、その後、乗員に感染者が出ていることが明らかにされた。
中でも懸念されるのが、米第七艦隊の母港、横須賀基地だ。
同艦隊広報部は、「ロナルド・レーガン」乗員の感染者数について「小人数、それ以上ではない」と述べたのみで、詳しい状況を明らかにしていない。
しかし、米国防総省傘下の情報紙「The Stars and Stripes」によると、去る3月27日、同基地内で「乗員3人」の感染が判明、それ以来、在日米軍司令部は横須賀および空母艦載機要員が駐屯する厚木両基地の全兵員、軍属、基地従業員たちを対象とした「外出禁止令」を発令、感染拡大防止のための厳しい措置をとっているという。問題の「乗員3人」の所属など詳しいことは明らかにされておらず、同空母か、空母打撃群の他の艦船かも不明だ。厚木基地司令官のビデオ・メッセージによると、今のところ、同基地内での感染者は出ていない。
同空母乗員のうち1000人が現在、基地内医療施設でコロナウイルス感染テストを受け、結果待ちの状態となっている。
別の米海軍筋によると、同空母は補修・補給を終え、近く西太平洋海域での任務に就く予定だったが、コロナウイルス危機により、今後の作戦実施に遅延が出ることは避けられない状況となりつつある。
さらに、同紙が9日、報じたところによると、横須賀、厚木、佐世保各基地所属の海軍兵員のうち「不特定多数」がウイルス検査のため東京近郊の横田在日米軍司令部内の「隔離居住施設」に収容されており、最低2週間の外出禁止措置がとられている。
このほか、「ニミッツ」が停泊中のブレマトン基地においても、乗員の1人が症状を訴えたため、基地内施設に隔離、精密検査を実施中だが、13日現在、「陽性」かどうかの最終判断には至っていない。同空母乗員の別の1人についても、3月上旬に一時休暇中のほかの州の滞在先で「陽性」が確認されたため、本艦には戻らず、別の施設で治療中だ。
同空母で任務についている乗員の一人の父親がワシントンポスト紙に語ったところによると、約4800人の乗員たちは事前に体温チェックと健康状態の質問を受けたのみで、きちんとしたウイルス感染テストを経ないまま搭乗を開始しており、海軍上層部は切迫した危機を真剣に受け止めていないとの不満も乗員たちの間から出ているという。
米海軍空母打撃群は通常、空母1隻を軸に、ミサイル巡洋艦1隻、ミサイル駆逐艦2隻、ミサイル・フリゲート艦1隻、攻撃型潜水艦1隻、補給艦1隻から構成され、一群となって作戦任務にあたるため、今回のような主軸の空母がコロナウイルス危機に見舞われた場合は、当然、他の随伴艦船も出港停止状態となる。
米海軍は現在、大型原子力空母10隻を保有しているが、このうち「エイブラハム・リンカーン」「ジョージ・ワシントン」の2隻はオーバーホール中のため、残り8隻からなる。
空母打撃群でグローバル海洋展開作戦を実施中だった。しかし、このうち、今回、空母4隻でコロナウイルス感染者が出たことから、当面の前方展開作戦は残り空母4隻が率いる打撃群のみで担うこととなり、米軍プレゼンス自体に一時的とはいえ、空白が生じかねない憂慮すべき状況下にあることは否定できない。
こうした中、中国軍が、太平洋における米軍プレゼンスの動揺を見透かすかのように、動きを活発化させている。