2022年8月18日(木)

Washington Files

2020年4月15日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

台湾南部海域で軍事演習を強行した中国海軍

 すでに日本の防衛省が公表している通り、中国軍の空母「遼寧」率いる6隻からなる空母打撃群が去る11日、沖縄本島と宮古島間の海域を抜け、太平洋に入ったことが確認された。その後、台湾国防部が声明文で明らかにしたところによると、同打撃群は台湾東部沿岸をへて南部海域に移動、軍事演習を強行した。さらに声明は「台湾軍側はその動きをモニターするとともに、国家安全保障を確保し、地域平和と安定防衛のため、必要なあらゆる措置を講じた」と述べた。

 このほか、中国人民解放軍の英語版ウェブサイトでは先週以来、南シナ海において大規模軍事演習が最近続けて実施されたことや、ベトナム国籍漁船の撃沈、さらにウイルス拡散の発生源となった武漢市の軍需工場再始動状況などの新たな動きが発信されたほか、10日付けの記事では「コロナウイルス感染拡大により、アジア太平洋海域における米海軍戦艦投入能力が顕著に低下してきた」といった挑発的文章も含まれている。

 シンガポールの「The Strait Times」紙によると、米海軍はコロナウイルス感染拡大の間隙を縫って台湾周辺での中国軍演習が最近になって活発化しつつある事態を重視、動きのとれなくなった空母に代わり、他の艦船急派などで対応しつつある。去る10日、第七艦隊のミサイル駆逐艦「バリー」が中国側の空母打撃群接近に合わせ、台湾海峡を通過したのもその一例だ。

 一方、ワシントンの国防総省、および統合参謀本部の最高幹部は、米海軍内に広がるコロナウイルス不安の打消しに躍起となっている。

 マーク・ミレー統合参謀本部議長は去る9日、ネット中継による市民集会で「わが米軍は必要に応じて米国民防衛に対応できる態勢にあることを何人も疑うべきではない」「戦略核戦力も含め各戦力は堅持され、コロナウイルス感染の脅威低減のために適切な措置を講じている」「いかなる敵国に対しても、この危機に乗じるチャンスだという不明確なメッセージを送ってはならない。もし、彼らがそのように思ったとすれば、悲劇的過ちを犯すことになる」と強調した。

 デイビッド・ノーキスト国防副長官も同日、ペンタゴンでの会見で「わが方に危害が及ぶことを期待している連中に言っておくが、間違った考えを抱いてはならない。感染がわが国両岸にもたらしたチャレンジに直面しているとしても、国防総省はいかなる脅威にも対処し、わが国を防衛する用意はできている。もし、アメリカが今、弱体化の時を迎えていると思う敵がいるとすれば、危険なほどの間違いを犯すことになる」と語気鋭く警告した。

 ただ、こうした米政府、軍トップによるあいつぐ異例の“戦意表明”にもかかわらず、現実にコロナウイルス感染危機が米軍戦力展開に深刻な影を落としていることは否めない。

 CNNテレビは去る7日、海軍大佐で、太平洋軍司令部「統合情報センターJoint Intelligence Center」部長の要職にあったカール・シュースター海軍大佐の次のようなインタビューによる見解を伝えた:

 「たとえ短期であれ、米海軍がコロナウイルス感染の直撃を受けた結果、空白が生じたとの印象を中国人民解放軍が抱き、好機ととらえて南シナ海における自分たちの態勢を有利にしようしていると思われる。先月、同海域で度重なる軍事演習を実施したことにもみられる通り、米軍態勢が(コロナウイルス危機により)影響を受けたとの認識が中国側を大胆にさせた・・・米第七艦隊の場合、艦船は米本土からはるかに遠い太平洋に薄く広がり、しかも長期にわたり展開を余儀なくされているのに対し、中国人民解放軍の艦船は自国の近海でしかも洋上活動は30日以下であり、もし、艦内でコロナウイルス感染者が出たとしても、すぐに下船させ、交代要員を搭乗させることができる。さらに感染者発生の有無についても、自国内の基地内で情報管理できるという地理的優位性もある」

 米海軍は当面、コロナウイルス感染危機の早期収束に期待を寄せるしかないのが現状だ。

 ただ、そもそも軍事プレゼンスは、シュースター大佐も指摘している通り、いったん空白もしくは低減が生じた場合、敵がそこにただちに割り込み、新たなプレゼンスとして恒常化を許す口実となりうる。

 中国軍空母打撃群が最近、台湾海峡を往来したことは、まさにそのことを示している。

台湾海峡はもとより南シナ海における軍事バランスは、中東石油に依存するわが国にとっても死活的に重要な関心事だ。今般の米第七艦隊が直面するコロナウイルス感染危機問題は、けっして他人事では済まされない。

  
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