2024年11月22日(金)

Washington Files

2020年4月8日

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 コロナウイルス感染危機回避のため乗員緊急退避を直訴したことを理由に、米第七艦隊原子力空母艦長が即刻解任された問題めぐり、米議会のみならず乗員家族、軍関係者などから多くの反論や批判が殺到、ついにトランプ大統領自らが海軍省トップの取った措置の適否について直接裁断に乗り出す事態にまで発展してきた。

 問題の発端は、去る3月31日、グアム島に停泊中の空母「セオドア・ルーズベルト」艦長ブレット・クロジア大佐が上官宛てに、艦内にコロナウイルス感染が拡大しつつある憂慮すべき状況を説明した上「乗員たちの身の安全確保のため緊急退避させたい」と直訴、これをサンフランシスコ・クロニクル紙が特報として報じたことだった。

ブレット・クロジア大佐(Mass Communication Specialist 3rd Class Sean Lynch/U.S. Navy/REUTERS/AFLO)

 翌4月1日、全米の主要テレビ、新聞でも一斉に後追いで大々的に報じられ、ワシントンの国防総省にも対応策について問い合わせが殺到する事態となった。そして、2日にはトーマス・モドレー海軍長官代行がいきなり、現場からの事情聴取もすることなく、「クロジア艦長即刻解任」という電撃的発表に及んだ。

 ところが、艦長直訴と前後して艦内に残された乗員たちの間から①すでに150~200人近くが感染している②このまま上陸・緊急退避が認められないと艦内は危機的状況になる―といった窮状を訴える匿名通報が相次ぐ一方、「解任」令を受け、ショルダーバッグ一つを肩にかけブリッジを渡って寂しく埠頭に上がり迎えの車で立ち去る艦長の姿や、艦上の船べりに集まった1000人近くの乗員たちが「英雄」との別れを惜しむような表情で「クロジア艦長」の名を何度も歓呼するシーンがユーチューブ動画で配信されて以来、ペンタゴンの措置に対する批判、クロジア艦長への同情論が一気に高まる結果となった。

 これまでにネット上で寄せられたツイッター投稿には、以下のようなものがある:

 「トランプは無能をさらけ出した海軍長官代行を首にすべきだ。クロジア艦長は直訴状によって多くの乗員たちの生命を救ってくれた」

 「トランプは今や多くの人が艦長解任に異議を唱え始めたことを知って、責任を海軍長官に責任転嫁しようとしている。クロジア大佐は正しい行動に出たのだ。海軍はすぐに行動しようとしなかった。そのために多くの乗員たちを生命の危険にさらした」

 「ユーチューブ動画を見たが、海軍リーダーシップは事の重大さを読み違えた。彼らは艦内の居住空間がいかにウイルス感染に危険かわかっていない。艦長は乗員たちにとって模範的英雄だった」

 「大佐殿! 乗員たちの世話をしていただき感謝。栄誉をたたえます」

 また、海軍機関紙「Navy Times」最近号は、息子が「セオドア・ルーズベルト」乗員の一人だというフロリダ州の学校教師の母親との電話インタビューを掲載、この中で女性は

 「息子が上層部からの仕打ちを受けるかもしれないので匿名で」とした上で、以下のように切々と訴えた:

 「昨日、彼と話しました。今はやっと、上陸・隔離が許され、島内のホテルの一室で休んでいる。艦内の彼がいた居住区には250人近くがいて、そのうちの一人がウイルス検査で陽性だったと言っていました。これを知って仰天しました。わが国中が今やロックダウン状態にあるのに、艦内では何の隔離措置もとられていないとは……もう、怒りがこみ上げてきます。それに、息子も絶大な信頼を寄せていた艦長を解任してしまうなんて許せません」

 一方、全米の軍関係者の間では、退役軍人の呼びかけによる「クロジア艦長復職」を求めるオンラインによる請願運動がスタートした。「Navy Times」の報道によると、賛同者数は過去数日間のうちに急増しつつあり、すでに5日現在、28万5784人の署名が集まっているという。


新着記事

»もっと見る