Washington Files

2020年3月30日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 コロナウイルス危機が深刻化する米国で、民主党大統領候補指名をほぼ手中にしたジョー・バイデン氏(77)が派手な選挙運動を自粛する一方、トランプ大統領が事態収拾に向けた奮闘ぶりをアピールする意欲的なメディア攻勢に転じている。

 トランプ大統領のメディア対応がここにきて一変してきた。

 大統領は就任以来、お気に入りの保守系FOXテレビをのぞく3大ネットワークとCNNのほか、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストなど主要紙を一刀両断「偏向メディア」ときめつけ、ホワイトハウス・プレスルームでの記者会見も最小限にとどめてきた。

 ところが、コロナウイルス国内感染が拡大し、初期対応の遅れに対するマスコミ批判が高まる中で、去る13日、「国家非常事態」を宣言して以来、連日のようにプレスルームに姿を見せ、「国防生産法」の適用、2兆ドルに上る大規模緊急支援措置など、政府が次々に打ち出す対応策を国民向けにアピールし始めた。

28日、バージニア州ノーフォークに停泊する海軍の病院船を訪問したトランプ大統領(REUTERS/AFLO)

 その豹変ぶりは、ホワイトハウスが毎日公表する「大統領日程」にはっきり表れている。

 それによると、大統領はウイルス感染者が米国内に増え始めた3月に入ってからも、国家安全保障に関わるデイリー・ブリーフィング、共和党系政治集会での演説など普段通りのゆとりのあるスケジュールをこなし、国内感染者が400人以上、死者20人以上と深刻化し始めた去る7日(土)、8日(日)の週末も、フロリダ州パームビーチに所有する自慢のリゾートでゴルフ三昧と親友たちとのディナーでのんびり時間を過ごした。

 しかし、感染者2000人以上、死者40人以上と一挙に事態の悪化が明らかとなった13日、一転して全米国民向けに「国家非常事態」を宣言して以来、週末も返上して毎日、TVカメラの放列を前に、感染拡大抑制に向けた真剣な取り組み姿勢への理解と支持を市民に訴えかけている。

 ニューヨークタイムズなど一部の有力紙の間では、こうした国家危機を逆手に取った政治ゼスチャーに対する批判の声も出始めているが、会見内容が国民の喫緊の生活に関わる内容が内容だけに、報道せざるを得ない状況にある。

 大統領は28日の週末にも、バージニア州ノーフォーク海軍基地を訪れ、コロナウイルス重症者の応急手当のために急遽動員された海軍病院船を自ら視察、今後、病床数が不足し危機的状況にあるニューヨーク湾内で治療にあたる軍医たちを激励する様子も大きく報道された。

 これらの大統領の積極果敢な動きは、コロナウイルス危機発生以来の、後手後手に回った当初の対応に対する国民の批判をかわすとともに、11月大統領選での再選に向けた政治的効果をねらったものであることは間違いない。

 一方、政権奪回を目指す野党民主党は、2月以来、各州における予備選・党員集会を通じ、し烈な党指名候補レースを展開、途中まで劣勢が続き戦線離脱の危機にもあったバイデン氏が一転、首位に立ち勢いをつけるなど、例年にない異常なほどのマスコミの関心を集めつつあった。

 そこに到来したのが、予想もしないコロナウイルス危機だった。

 それ以来、感染拡大予防措置として、大統領による「10人以上の集会自粛」呼びかけなどもあり、今後に予定されていたジョージア、ニューヨークなどの主要州を含む民主党の予備選・党員集会の実施のめどもつかなくなってきた。7月13日、ウイスコンシン州ミルウォーキーで大々的に開催予定だった党指名候補を最終確定する全国党大会にも影を落とし始めている。

 これまで盛り上がってきた熱気は、ここにきてすっかり冷めきった感じだ。

 指名争い前半まで優勢に立っていたバーニー・サンダース上院議員(78)はすでに代議員獲得数でバイデン候補に大きく水をあけられ、今後の予備選・党員集会でも苦戦が予想されるため、指名獲得は絶望的となり、民主党幹部の間からも「早期撤退」を求める声も上がり始めている。

 しかし、そうした批判をよそにサンダース氏は現役上院議員の立場を生かし、コロナウイルス対策のための緊急予算審議などの場を通じ、活発な発言を続けており、社会福祉制度をめぐるトランプ政権に対する舌鋒鋭い批判はそれなりに注目を浴びている。

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