Washington Files

2020年3月16日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 国民のトランプ不信を一気に加速させたのが、大統領が神妙な表情で臨んだコロナウイルス対策特別演説から一夜明けた12日の、1987年“ブラック・マンデー”以来という衝撃的株価大暴落だった。

 大統領は演説の中で①感染拡大防止のため、英国を除く欧州諸国から米国への入国を30日間禁止②コロナウイルスの影響を受けた企業、個人に対する納税期限先送り③中小企業に対する低利融資による支援―などの新たな措置を発表した上で「これは現代史上、外国からのウイルスに立ち向かうための最も積極的な対策だ」と自賛し、米国民に冷静な対応を呼び掛けた。

 ところが、翌朝のウォール街は取引開始とともに売り注文が殺到、ついに終値では38年ぶりの株価暴落となり、投資家のホワイトハウス不信感を如実に反映させる結果となった。ウォールストリート・ジャーナル紙はじめアメリカの主要メディアは、大統領演説への失望感の現れ、との見方で一致している。

 さらにこの演説では、肝心の大規模集会開催延期、学校閉鎖措置といった国民向けの具体的な行動指針には何ら言及はなく、翌13日段階では、各州自治体の学校長、大学学長、企業経営者、各種プロスポーツ・コミッショナーらがしびれを切らして、独自の判断で緊急対応策を打ち出し始めるなど「大統領はコロナウイルス危機に立ち向かうリーダーではなく傍観者であることをさらけ出した」(同日付ニューヨーク・タイムズ紙)

 株価大暴落という予期せぬ事態に直面した大統領はようやく翌13日、急遽、記者会見に臨み、「国家非常事態」を宣言するともに、①感染拡大防止策として最大500億ドルの臨時支出②医療機関のベッド数制限撤廃③遠隔診療のフル活用―など医療体制強化策を打ち出した。

14日、コロナウィルス対策のタスクフォースと共に、プレスブリーフィングに臨んだトランプ大統領(REUTERS/AFLO)

 「国家非常事態」宣言については、各地方自治体、医療機関などから早期実施を求める声がかねてから高まっていた。しかし、大統領は大騒動になることを理由に、決断を先延ばしにしてきたいきさつがあり、前日のウォール街パニックでようやく動き出したかたちとなった。ここでも「ドタバタ対応」の印象はぬぐえない。

 大統領はコロナウイルス感染が米国内に広がり始めた当初から、「一時的な騒ぎであり、春暖かくなれば、収まる」とコメントするなど、深刻な拡大には否定的言動を繰り返してきた。

 例えば、去る2月26日の記者会見では、CDC(米疫病管理予防センタ)がすでに感染拡大傾向に警告を発し始めていたにもかかわらず「感染者数は減少しており、死亡リスクもインフルエンザより少ない」と事実と異なる発言をして、同席したCDC担当部長を困惑させた上、「われわれはどんなことにでも十二分に備えがある」と豪語してみせた。

 コロナウイルス予防ワクチンの開発見通しについても「すぐにでも十分な量だけ用意できるだろう」と根拠のない見通しを述べたが、CDCは「最低1年はかかる」としており、

 ここでも矛盾を露呈させた。

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