2024年12月24日(火)

田部康喜のTV読本

2024年4月13日

 NHKスペシャル「未解決事件 File.10」は戦後最大の謎とされる、国鉄(JR各社に分割前の全国を網羅した国営鉄道)の下山定則総裁が1949年夏、三越本店に入ったあと、失踪後に常磐線綾瀬駅付近で列車による轢断死体で発見された怪事件に調査報道によって迫った。

(NHKホームページより)

 作家の松本清張氏が『日本の黒い霧』(1960年)によって、朝日新聞記者だった矢田喜美雄氏らジャーナリストが取り組んできたテーマの最終結論がでたのではないか、と思わせる傑作である。

分かれた「他殺説」と「自殺説」

 「下山事件」とは、終戦後に海外から引き揚げてきた国鉄職員に満州鉄道の職員が加わって約60万人の組織に膨れ上がった国鉄に対して、日本を占領していた連合国最高司令官総司令部(GHQ)が10万人の人員整理を迫ったなかで起きた。

 東京地検の捜査を指揮した主任検事は、布施健氏(ドラマでは森山未來)である。布施氏は田中角栄元首相を逮捕する「ロッキード事件」の際に検事総長だった人物である。

 未解決事件シリーズの過去の手法にならって、今回も第1部がドラマ編、第2部がドキュメンタリーの構成になっている。両部とも調査報道によって、内外の新資料を発掘している。

 国内の資料のなかで特筆すべきは、布施検事が下山事件の時効の15年後まで少人数で捜査を続けた結果を綴った約700頁にも及ぶ捜査資料である。聴取の対象は政治家や国鉄関係者、右翼まで多岐にわたっている。

 検察と警視庁捜査第2課は「他殺説」に立った。下山総裁の轢断死体に「生体反応」つまり自殺であれば皮下出血反応があるのにその存在がなかったことから、東京大学医学部古畑種基教授の研究室が「死後轢断」つまり殺人としたことによる。

 これに対して、警視庁捜査第1課は下山総裁の死体が発見される直前まで、総裁と思われる目撃者が10人以上もいたことを根拠として「自殺」つまり死ぬまでに現場付近をさまよったのではないか、とみたのである。なお、ドラマでは取り上げられていないが、慶應義塾大学医学部も列車に飛び込み自殺の際には「生体反応」がない場合もあるとして、「自殺説」についた。

 メディアも分かれた。朝日新聞は「他殺説」に対して、毎日新聞は「自殺説」に立った。とくに朝日の矢田喜美雄記者(ドラマでは佐藤隆太)は、東大医学部の古畑研究室の研究員を兼務して他殺説を追った。

 ドラマのなかで、ルミノール反応によって遺体発見現場に向かって近くの小屋から血痕が続いていることも突き止めた。この血液型は50人に1人というもので下山総裁と一致した。これもドラマでは触れられていないが、当時は入手が困難だったルミノール剤を購入したのも矢田記者だった。


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