新年になれば、欧州の天然ガス価格が上昇し、日本に影響があるかもしれない。今年末にロシア産天然ガスのウクライナ経由の欧州向け輸送契約が終了するからだ。新契約が締結されなければ、その影響は日本にも及ぶ。
ウクライナ経由の天然ガス輸送が始まったのは50年前だった。旧西ドイツが当時の東西冷戦の対立を和らげるため、旧ソ連との間で天然ガスの売買に1970年に合意した。73年にソ連の構成共和国であったウクライナ社会主義共和国を経由するパイプラインにより、西ドイツへの天然ガスの輸出が始まった。
価格競争力のあるソ連・ロシア産天然ガスは、その後半世紀にわたり欧州諸国の産業と家庭を支える役割を担ったが、22年2月にロシアがウクライナを侵略したことから、欧州諸国はロシアへの制裁を開始しロシア産化石燃料輸入量の削減に乗り出した。
欧州連合(EU)は、既にロシア産石炭と原油・石油製品の輸入を禁止しているが、天然ガスについては、ロシア産を全て代替することが叶わず侵略前から約7割減少したものの輸入が続いている。
ロシア産天然ガスのEU向け輸出にはウクライナを経由するパイプラインも依然使用されており、24年のEU向けパイプラインガスの輸送量ではウクライナ経由が約5割を占めている。ロシアとウクライナは戦争中にもかかわらず、EU向けにロシア産天然ガスを輸送する契約をともに遵守している。
しかし、ロシアとウクライナ間の輸送契約は、24年12月31日をもって終了する。ロシアは契約延長の用意ありとしている。一方ウクライナは契約を延長しないと主張しているが、契約終了が迫るにつれ共に発言がぶれ始めた。現時点でも先行きは不透明だ。
契約が終了すれば、ウクライナ経由の天然ガスに大きく依存するスロバキア、オーストリアなどは、代替の天然ガスを調達する必要に迫られる。ロシアもウクライナも収入を失う問題に直面する。
25年1月1日に新契約が締結されなければ、ウクライナ経由の中東欧向け天然ガス供給は途絶し、その影響はウクライナ国内と同国を経由し天然ガスを輸入している国だけではなくEUにも、世界の天然ガス市場、日本のエネルギー価格にも及ぶ。