Washington Files

2020年3月4日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 米民主党候補レースでフロントランナー、バーニー・サンダース候補(78)を追う中道派のジョー・バイデン前副大統領(77)は3日、最大の山場“スーパー・チューズデー”で予想外の大勝利を収めた。今後どこまでサンダース旋風の勢いを止める“ファイア・ウォール”(防火壁)になりうるかが注目される。

 初戦のアイオワ党員集会以来、苦戦続きだったバイデン候補は先月29日、背水の陣で臨んだ第4戦サウスカロライナ予備選で2位のサンダース候補以下に大差をつけ、初めて祝杯を挙げた。その余勢をかって、3日のスーパー・チューズデーでサンダース氏との差を一気に縮め、どこまで巻き返しできるかに関心が寄せられた。

勢いを取り戻したバイデン氏(REUTERS/AFLO)

 その結果、テキサス(代議員228人)、バージニア(124人)、ノースカロライナ(122人)、アラバマ(52人)など南部諸州のほか、北東部のマサチューセッツ州(114人)でも、軒並み勝利を収め、一気に形勢を逆転させた。ただ、最多の代議員数を擁するカリフォルニア州(415人)のほか、コロラド(80人)、ユタ(35人)、バーモント(23人)各州では、サンダース氏に敗れた。

 今後の展開は、バイデン氏にとってなお楽観できるものではない。サンダース氏が頼みとする都市労働者、ヤング世代、ヒスパニック系有権者などの多いミシガン(147人)、フロリダ(248人)、イリノイ(184人)、オハイオ(153人)、ニューヨーク(320人)、ペンシルバニア(176人)など多数の代議員を擁する各州での予備選がこれから待ち受けているからだ。

 とくに同日実施された14州のレースのうち、カリフォルニア州でのサンダース勝利は、象徴的だった。前々日の1日、ロサンゼルス・コンベンション・センターで同候補支援のための大ロック・コンサートが開かれたが、室内イベント施設としては全米最大規模を誇る会場には1万7000人の熱狂的支持者が詰めかけ超満員となった(ロサンゼルス・タイムズ紙)。

 これに先立つ先月24日、テキサス州オースチン市の屋外イベント会場「ビック・マシアス・ショアズ」での同候補支援集会にも「1万2000人以上の支持者」(CBSテレビ)が詰めかけるなど、サンダース氏が赴く各都市の集会は満員状態が続いているという。

 バイデン陣営にとって今後も侮れないサンダース陣営の最大の強みは、その強固で幅広い支持基盤にある。とくに他の候補には見られない特徴として、以下の諸点が挙げられてきた:

潤沢な資金

 サンダース氏の下に集まる選挙資金は、億万長者のマイク・ブルームバーグ氏(77)を例外として他のどの候補と比べても断トツだ。昨年10ー12月の間だけでも3400万ドル(約37億4000万円)を集め、今年1月末までにTVコマーシャル代などに5000万ドルを投入したが、その後も莫大な資金を集めており、CNNテレビによると、1月だけで2500ドル、2月はそれをはるかに上回る4650万ドルを集め、1カ月間の献金規模としては新記録となった。これまでに寄せられた献金総額は1億2100万ドルと潤沢で、その後も勝利を収めるにつれて増えつつある。ちなみにバイデン候補に対する2月の献金額は1700万ドルだった。

 しかも、バイデン候補が企業、富裕階層などの大口献金に依存してきたのに対し、サンダース候補の場合は大半が1口5ドル、10ドルといった一般市民の小口献金者で占められており、それもオンラインによるものが圧倒的に多い点が特徴だ。サンダース陣営の発表によると、全米の学校教師、スターバックス、アマゾンといった新興大企業の従業員、学生アルバイトなどからの献金も目立っており、去る2月29日の場合、1日だけで450万ドルもの献金申し出があった。その中には初めての献金者35万人も含まれていたという。

草の根軍隊

 人海作戦も大規模だ。例えば圧勝した第3戦のネバダ州党員集会では、熱烈な5万人近くの支持者が事前に、50万世帯の家庭を戸別訪問、同候補への投票を呼び掛けた。

 その特徴は「grass roots army」(草の根軍隊)と呼ばれる独特のボランティア組織にあり、全米の各都市、地域、地区ごとにきめ細かく配置した“captain”の指揮の下にそれぞれのエリアの特色を生かしたキャンペーンを展開する。選対本部からのトップダウン戦略ではなく、独自の判断に任せたDIY方式だ。この「草の根軍隊」には昨年2月、サンダース氏が立候補を表明した時点で「100万人が登録済み」(同陣営)であり、その後も雪だるま式に増えつつあると伝えられる。

 「テレホン・バンキング」と呼ばれる参加呼びかけ運動も強みの一つだ。例えばボランティアのスタッフ一人当たりが無作為に100人程度の有権者に電話を入れ、運動参加に興味を持つ場合は名前、年齢、職業、連絡先を留守番電話に入れるようリクエストする。仮にそのうち10人から反応があった場合は、“人材プール”に保管、その一人一人にベテラン・スタッフが電話やメールを通じて運動の具体的ノウハウを指導しながらネットワークを拡大していくというゲリラ戦術だ。

 各州予備選での投票日が近づき、サンダース候補への投票を依頼する戸別訪問の際には、運動員の若い母親たちのために留守宅の子供を預かるデイケア・サービスまで用意する徹底ぶりだ。

幅広い支持層と高い忠誠度

 サンダース候補はこれまでの選挙戦を通じ「多世代、多人種間の連帯multi-generational, multi-racial coalition」が“サンダース革命”の最大の強みだとアピールしてきた。

 実際に、サンダース氏が圧勝した先のネバダ州党員集会結果を分析したEdison Media Research の入り口調査によると、集会に参加した30歳以下の有権者の66%、45歳以下の48%、55歳以下の65%がサンダース支持だった。男女別では女性の30%、男性の38%、

 人種別ではヒスパニック系の53%が支持に回った。また、集会参加者は「大学卒」「高卒以下」がほぼ半数ずつだったが、サンダースはいずれのグループでもトップだった。

 さらに、自ら「民主社会主義者」を標榜し、他の候補からは「アメリカ資本主義破壊者」として繰り返し攻撃を受けてきたにもかかわらず、支持者の間での忠誠度が極めて高いことも特色とされている。

 例えば、圧勝したカリフォルニア州を見た場合、FiveThirtyEightの追跡調査によると、民主党候補争いが本格化した年明け以来、他候補のみならず、主要マスコミも一斉にサンダース候補に対する「社会主義への懸念」を伝え始めたにもかかわらず、同候補支持率は1月初めの22%、2月半ばに28%、そして予備選直前の3月1日には32%にまで伸び続けたことが明らかになっている。これに対し、バイデン陣営は、中道派として政治的立場を共有するブティジェッジ候補(38)が同州投票日の2日前に、クロブシャー候補(58)が1日前に撤退、それぞれバイデン候補への支持を表明したが、勢いづくサンダース旋風を食い止めることはできなかった。

 明解なメッセージ

 サンダース氏の強みは、都会労働者、大学生含めヤング層にとってわかりやすいメッセージを発し続けてきた点だ。とくに、「国民皆保険実施」「貧富格差是正」「学生ローンの帳消し」といったスローガンは、人種を問わず多くの有権者にとって生活に直接かかわる切実な問題だ。大半の有力ディアはそれぞれの項目の実現可能性に疑問を投げかけているものの、大衆受けしていることは否めない。

 これに対し、バイデン候補の掲げるスローガンは基本的に、「医療保険改革オバマケア」などオバマ民主党政権が進めてきた政策踏襲であり、マスコミからも「新味さに欠ける」と批判されてきた。

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