Washington Files

2020年2月3日

»著者プロフィール
著者
閉じる

斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 米上院のトランプ弾劾裁判は来る5日の最終審理で、与党共和党多数が「大統領無罪」評決を下し、正式な幕引きを迎える運びとなった。しかし、同党の反対により証言の機会を失ったジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)が、近く出版予定の暴露本やメディア・インタビューなどを通じ、今後どんな行動に出るか、ホワイトハウスはその一挙手一投足に神経をとがらせている。

 弾劾裁判で訴追側代表を務めてきたアダム・シフ下院情報特別委員会委員長はこれまでの審理を通じ、最終評決前に、ウクライナ疑惑の真相を知る重要参考人としてボルトン氏の証言を強く求めてきた。

ボルトン氏の証言を求めて議会前で抗議する人々(AP/AFLO)

 しかし、ミッチ・マコーネル上院院内総務ら共和党指導部は、証言は審理を長引かせるだけでなく、その内容次第では11月大統領選にもダメージを与えかねないとして、反対を表明、投票の結果、反対多数で証言要求を却下した。

 注目されるのは「喚問されれば証言する」としてきたボルトン氏側の今後の出方だ。

 同氏は、ウクライナ疑惑などに触れた『The Room Where It Happened: A White House Memoir』と題する暴露本を来月、出版を予定している。

 ニューヨーク・タイムズ紙はすでにこの本の草稿を入手、先月26日、31日の2回にわたり、核心に触れる内容の一部を報道した。

 まず26日付けでは、以下のような点が明らかにされた:

 「昨年9月のあるミーティングで、トランプ大統領は自分に『ウクライナ側が2016年大統領選、ヒラリー・クリントンそしてバイデンに関連する情報を提供するまでは、軍事援助凍結を解除するつもりはない』と語った」

 「大統領は2016年大統領選に関連し、ロシアではなくウクライナが民主党全国委員会とクリントン選挙対策本部発信のメール窃取に関与したとの陰謀説を真に受け、ウクライナ政府当局者らがクリントン陣営を大ぴらに支援したとして苦々しく思ってきた」

 「トランプ大統領個人弁護士ルドルフ・ジュリアーニ氏はウクライナに対する懸念と“アンチ・トランプ”のマリー・ヨバノビッチ米駐ウクライナ大使(当時)に対する敵意をかきたて、大統領も同大使解任を昨年4月時点で命じていた」

 「ポンペオ国務長官、エスパー国防長官は数回にわたり、ウクライナ援助凍結を解除するよう大統領説得につとめたが、らちがあかなかった」

 「トランプ大統領が昨年7月、ウクライナのゼリンスキー大統領と(バイデン捜査要請に関する)電話会談を行った後、自分は、ジュリアーニ氏が大統領のお墨付きで影のウクライナ政策を取り仕切っていることや、大統領自身がゼリンスキーとの電話会談の中でジュリアーニ氏が果たすべき役割に言及したことなどについて、バー司法長官に懸念を伝えた」

 「トランプ大統領がヨバノビッチ大使(解任)問題についてジュリアーニ氏と協議した際、マルバー首席補佐官代行が同席していた」

 さらに同紙は31日、出版本の続報として、トランプ大統領にとってさらに痛手となる以下のような内容を報じた:

 「トランプ氏は昨年7月25日、ゼリンスキー大統領との電話で、対ウクライナ軍事援助凍結解除と引き換えに、バイデン前民主党大統領候補親子に関する捜査開始を要請したのに先立ち、同年5月、ホワイトハウス・オーバルオフィス(大統領執務室)で自分(ボルトン補佐官)に対し、『バイデンにダメージを与える情報をウクライナ政府側から引き出せるよう、力を貸してほしい』、『そのために、ゼリンスキーに直接電話を入れ、ジュリアーニ氏がゼリンスキー大統領に会えるよう頼んでもらいたい』などと指示した。この時の約10分程度のやり取りの際には、ジュリアーニ氏のほか、ミック・マルバニー首席補佐官代行、パット・シポローネ弁護士も同席した……私は、こうしたウクライナ政府に対する“圧力キャンペーン”に反対し、ゼリンスキー大統領にも電話しなかった」

 これらの指摘は明らかに、弾劾裁判通じ「トランプ氏は何ら悪いことはしておらず、疑惑は初めから民主党側のでっち上げに過ぎない」としてきた大統領弁護団の主張を覆すものであり、メディアの関心は3月出版後、本書の中でウクライナ疑惑に関しどんな新たな内容が暴露されるかに集まりつつある。

 このため、ホワイトハウス側はただちに出版差し止めの動きに出た。

 先月29日、ロイター通信が報じたところによると、国家安全保障会議(NSC)当局は、「暴露本」について草稿の中に「大量の取り扱い注意情報classified information」が記載されており、その中には「極秘top secret情報」も含まれているとして、「これらを削除しない限り出版を容認できない」とする書簡をボルトン氏側弁護士宛て送付した。

 同弁護士は「本の中には指摘するような機密情報はない」と反論している。

 ホワイトハウス側は、ボルトン氏側が「機密情報削除」の要求に応じない場合、ワシントン連邦地裁に出版差し止め訴訟を起こすことも考えられる。

 このため、場合によっては、地裁判決が出るまで、出版時期が先延ばしになる可能性も否定できない。 

 しかし、トランプ政権にとって、裁判結審の土壇場でボルトン氏証言却下にこぎつけた後、かりに暴露本の出版差し止めが認められることになったとしても、先行き不安材料がすべて解消したことにはならない。なぜなら、一難去ったとはいえ、同氏が今後“爆弾材料”を抱え込んだまま、どんな発言や行動に出るか、まったく予測がつかないからだ。 

関連記事

新着記事

»もっと見る