Washington Files

2020年2月3日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

「超保守派で一本気」「正義感も強く、自分の信念を曲げない」

 大統領に牙をむきはじめたボルトン氏の性格について、ワシントン政界では様々な評価がある。「超保守派で一本気」「正義感も強く、自分の信念を曲げない」との指摘も少なくない。トランプ政権下で首席補佐官を務め、任期半ばで辞任した事情通のジョン・ケリー元海兵隊大将は、ボルトン氏が出版本の中で述べている内容について、「彼がそのように語っているとすれば、信用できる。彼は私が在任中も、補佐官として大統領に常に包み隠さず、本当のことを伝えてきた。実直で、まじめな性格の持ち主だ」とニューヨーク・タイムズ紙記者に好意的にコメントしている。

 そのボルトン氏は昨年9月、大統領との間でイラン、アフガニスタン、北朝鮮問題などをめぐる「見解の相違」があったことを理由にホワイトハウスを去ることになったが、その際に、「辞任」か「解任」かをめぐり大統領とひと悶着あったことも、その後の二人の関係をこじらせる材料にもなっている。大統領は「解任した」と発表したのに対し、ボルトン氏は「解任ではなく、発表前日に自分のほうから辞任を伝えた」と反論した。

 こうしたことから、ボルトン氏は上院弾劾裁判での証言の機会を逸したものの、このまま泣き寝入りすることは考えられず、暴露本出版後も、あらゆる機会を通じ、トランプ政権の内情や、腐敗体質などについても、あけすけな発言を続けていくものとみられている。

 ホワイトハウスが最も懸念するのは、在任中にボルトン氏が置かれた立場だ。

 国家安全保障担当補佐官は、大統領補佐官の中でも、とびぬけて特別な存在であり、内外のあらゆる国家機密にいつでもアクセスできる特権がある。大統領の日常の行動についても、「国家安全保障」の対象であり、身辺警護を受け持つシークレットサービスを通じ常時把握、外国要人らとの会談内容、通話内容も逐次報告を受ける地位にある。

 今回の暴露本で事前リークされた内容は、ボルトン氏が在任中に知りえた情報のごく一部にすぎない。しかし、それでもホワイトハウス側が「トップシークレットも含まれる」として削除を要求する一方、ボルトン氏側が「今回の出版本には極秘情報はない」と含みを持たせて反論したこと自体、国家安全保障問題の責任者として底知れぬ機密を入手していたことを示唆するものだ。

 国内外の安全保障に関わる重要案件を検討するアメリカの「国家安全保障会議」(NSC)は、議長を務める大統領によって必要に応じ招集され、副大統領、国務長官、国防長官、エネルギー長官が正規メンバーとして出席するほか、「軍事アドバイザー」として統合参謀本部議長、「情報アドバイザー」としてCIA,FBIなど16の情報機関を統括する国家情報長官らが同席するが、ミーティングを取り仕切るのが国家安全保障担当補佐官の大切な役目のひとつでもある。

 それだけにボルトン氏の場合、これまでマスコミにまだ一度も報じられたことのないウクライナ疑惑の深層と真相を熟知していたことは想像に難くない。

 トランプ大統領は4日(現地時間)、自らの弾劾決議が行われたのと同じ下院本会議場に足を運び、恒例の年頭「一般教書」を読み上げる。そして翌5日に予定される上院本会議での「無罪評決」へて、いよいよ11月大統領選での再選に向け、選挙キャンペーンを本格始動説させることになる。

 だが、ボルトン氏が抱え込んだ“爆弾”の不安とウクライナをめぐる“濃霧”が視界から消え去るのは、まだ当分先のことになりそうだ。

  
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