ロシアのウクライナへの全面侵攻によって、多くのウクライナ人が、自らが「ウクライナ人」であるというアイデンティティを強く意識し、主張するようになった。ロシアのプーチン大統領が度々ロシアとウクライナの一体性を強調する発言をしており、ウクライナ人が国や自らを守るために「私はウクライナ人」という意識を持つことの必要性を強く認識したのである。
こうしたウクライナのアイデンティティを守るために寄与しているのが女性たちだ。戦時中という状況下で、男性は前線を含めた軍務につき、物理的に国や家族を守っているのに対し、女性たちが国や「ウクライナ人」であることを守ろうという意識を高めている。中でも、ウクライナ独自の文化を守るべく文化芸術活動に取り組む女性たちは驚くほど力強い。その活動や思いを紹介したい。
「ロシアによる文化財破壊の抑止を」民族図書館での取り組み
「兵士は前線で領土を守っている。私たちはここで文化を守る」。ウクライナの首都・キーウの民族歴史図書館で、上級司書として働くガリーナさんは、ウクライナの文化保護活動へ携わる思いを語る。
ガリーナさんはクリミア出身。戦争は2014年から始まっていた。
22年に全面侵攻が始まっても、キーウから離れず仕事を続けた。クリミア出身であることが彼女の覚悟をより強くさせているようだ。
全面侵攻直後はリモートワークで休まず仕事を続けた。所属する民族歴史図書館は、ウクライナの無形文化財リストを製作する。特にクリミアを含めたロシアに占領された地域の文化遺産に関する史資料の整理は優先的に行っているという。「自分たちの仕事はウクライナの歴史や文化を守ることに繋がる」とその意義を語る。
もちろん占領地で調査はできない。占領地にある文化財については、可能な限りアクセスできる記録や資料を利用している。
国の無形文化財に登録し、最終的にはユネスコ無形文化遺産の登録を目指す。「文化財としての価値が高まれば、ロシアによる文化財破壊への抑止にもなる」と語る。