「発がん性が指摘される化学物質PFASが全国各地で検出されている」などの報道が続き、不安が広がっている。国際がん研究機関(IARC)が発がん性を指摘したことは事実だが、内閣府食品安全委員会をはじめとして世界の規制機関が科学的根拠に基づいてこれを否定していることはほとんど報道されない。
安全を確認するのは科学であり、安心と不安を作り出すのは情報である。PFASについては科学と情報の乖離が大きいことから、その健康影響は感情ではなく科学に基づいて合理的な判断をすべきと1年前に「高まる不安、広がる誤解 化学物質PFAS報道の裏側」で提言した。それでは最新の状況はどうなっているのだろうか。
食品安全委員会の評価
食品安全委員会は、2024年6月に発表した評価書で、PFASの健康リスクの実態を明らかにした。PFASとは多くの有機フッ素化合物の総称であり、評価を行ったのはそのなかのPFOA、PFOS、PFHxSの3種類である。
その結論を一言でいうと、健康リスクの可能性が指摘されている肝臓、脂質代謝、免疫、発がんについては毒性を示す確実なデータはなかった。他方、実験動物の出生児に対する影響だけはかなり確実なデータがあった、というものだ。
この検討結果に基づいて、PFOSとPFOAが実験動物の出生児体重の低下を起こさない量に30分の1から300分の1の安全係数をかけ合わせて、指標値に設定した。具体的には、PFOSとPFOA それぞれについて、1日あたり体重1キロあたり20 ナノグラムを「耐容一日摂取量」(TDI)すなわち「人が一生涯にわたって毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量」としたのだ。他方、PFHxSについては十分なデータがないことから指標値を決めなかった。
身近な例で言えば、体重50キロの人なら1日に1000ナノグラム以下が指標値だ。規制値の上限である1リットル当たり50 ナノグラムが混入した水道水を20リットル以上飲めば指標値を超える。人が1日に飲む量である2リットルの10倍になる。
安全係数を考慮すると、数100リットル飲めば健康被害が起こるかもしれないが、それは出生児体重の低下であり、しかも実験動物の話だ。これがPFASの健康リスクの実態である。
食品安全委員会は、通常の食生活(飲水を含む)で摂取される程度のPFOSとPFOAにより著しい健康影響が生じる状況にはないと述べている。