2025年1月10日(金)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2025年1月10日

 小林製薬「事実検証委員会の調査報告を踏まえた取締役会の総括について」という文書には、「紅麹を培養するタンクの蓋の内側に青カビが付着していたことがあり、その旨を品質管理担当者に伝えたところ、当該担当者からは、青カビはある程度は混じることがある旨を告げられた」という記載がある。製造中の食品に混入した青カビを放置して、そのまま製品として販売したという行為は信じられない。改めてこの事件を見直すと、健康食品制度全体にかかわる多くの課題が浮かび上がる。

(SB/gettyimages)

青カビの毒性

 厚生労働省の発表では、紅麹が製造された大阪工場で青カビが採取された。これを培養したところプベルル酸が産生され、これをラットに7日間投与したところ、腎臓に病変が見られた。これらの事実から、青カビが産生した有毒物質プベルル酸により大規模な健康被害が起こったものと考えられている。

 青カビは餅やミカンなどで見かける身近な存在であり、これまで重大な健康被害はなかった。だから小林製薬の担当者も青カビ混入を軽視したのだろう。

 しかし、今回の事件で青カビにはプベルル酸のような強い毒性物質を産生する株があることが明らかになった。そこで第1の課題は、青カビの毒性を再検討して、健康食品を含むすべての食品の安全を保つうえで必要な対策を実施することである。

安全文化の構築

 小林製薬の紅麹培養工場は法律に従って衛生管理基準であるHACCP(危害分析重要管理点)を採用していた。カビ類の侵入は最も注意が必要な「重要管理点」のはずだが、これを放置した。食品の安全を守るうえでHACCPの採用は重要だが、遵守しなければ何の役にも立たない。

 企業や組織において安全を最優先とする価値観を共有し、事故や災害を防ごうという意識と行動が浸透していることを「安全文化」と呼ぶ。原発事故防止のために取り入れられた考え方で、事件や事故の大部分の原因であるヒューマンエラーを防止することが大きな目的である。小林製薬にはこの安全文化がどの程度存在したのか疑問になる。

 安全文化の不在により発生した事件や事故は多い。たとえば2020年12月に小林化工が製造販売した経口抗真菌剤に通常臨床用量を超える睡眠剤が混入し、死者が出る事件が起こった。医薬品製造工程にはHACCPよりずっと厳しい衛生管理基準であるGMP(適正製造規範)が義務化されているが、それが順守されなかったのだ。

 紅麹サプリ事件を受けて、国は錠剤やカプセルなどのサプリ形状の機能性表示食品と特定保健用食品(トクホ)についてGMPに沿った製造管理を義務化した。しかしこれを遵守しなければ何の役にも立たない。第2の課題は、すべての企業活動において安全文化の重要性を再認識することである。


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