本年3月に深刻な健康被害が報告された紅麹を含む機能性表示食品は累計86万個が販売されたヒット商品である。機能性表示食品制度は、事業者が根拠論文を添えて消費者庁に届出る簡便な制度で2015年に始まった。富士経済研究所によれば20年の市場規模は3349億円で前年比25.9%と大幅に増えている 。
利用者が効果を実感しているからこそ人気の商品に育ったのだが、その効果を証明する臨床試験論文の評判は極めて悪く、例えば22年に日経クロステックが連載記事で厳しく批判した 。論文で十分な効果が証明されていないにもかかわらず、利用者は効果を実感してリピーターになるという奇妙な現象が起こっているのだ。
それは「事業者が不適切な宣伝を行い、消費者がだまされている」のだという見方が多い(『「健康食品」にダマされるな!その科学的根拠に関する「驚きの実態」』)。しかし真の原因は全く別のところにある。
それは「プラセボ対照試験」という機能性表示食品に課された試験法にあり、この試験法では効果を検出することがむずかしいという深刻な構造的問題にある。そしてこの事実は薬理学の専門家以外にはほとんど知られていない。
食品機能の臨床試験の実態
まずは最近発表され批判論文を紹介する。上岡洋晴著「機能性表示食品制度の現状と課題—機能性のエビデンス」と題する総説によれば、23年1月までに届出があった機能性表示食品の根拠論文の5%が臨床試験結果であり、95%がすでに出版された論文を取りまとめたシステマティックレビューだが、その両方ともに質が極めて悪い。
たとえば臨床試験は実験計画において主要な測定項目を明記するルールになっているのだが、試験結果を見て有意差があった試験項目を後付けで主要項目と強弁するなどである。そして爆発的な届出数の増加の裏側で論文の粗製乱造が行われた可能性があるとしている。
次は染小英弘らの24年の論文で、科学技術振興機構が『「機能性表示食品の臨床試験、有利な結果を強調」医師らが問題提起』として紹介している 。その内容は臨床試験を受託する医薬品開発業務受託機関(CRO)大手5社が作成した論文32報について調査したものである。
その結果、72%が試験結果の中から都合がいいものだけを選び出して抄録に記載し、81%が都合のいい結果だけを結論として述べていた。11の論文がその内容を広告やプレスレリースに使用しており、73%が都合がいい結果だけを示し、82%が不当景品表示法第5条に基づく誤解を招くような表示と判断された。
要するに大部分の論文と広告では有利な結果をだけを強調するトリックを使った結果「優良誤認」の疑いがあるという驚くべき結果だ。