なぜ、「優良誤認」が起きるのか
都合のいい結果だけを選び出した例として、内臓脂肪に対する全粒粉パンの効果を調べた研究では、内臓脂肪も体脂肪も体重も変化していないが、腹囲だけは有意に低下したという試験結果から、「この食品は腹囲を減らす効果があります」と書いてある。
筆者も機能性表示食品の届出論文を多数調査したが、同様の例はいくつも見られた。例えば試験期間中のある一時期しか有意差がないのに全体として有効と判定するもの、眼精疲労、眼痛、ぼやけ、涙目、赤目、ちらつき、二重視、ピントなど多数の項目を設定して、ごく少数の項目だけしか有意な改善が見られないにもかかわらず、有効と判定したものなどである。
このような場合、機能性表示食品ガイドラインはTotality of Evidence(エビデンスの総体)で評価するよう求めている。例えば多くの検査項目の中で一部しか有意差が付かなかった場合、それは偶然の結果である可能性がある。そうではないという合理的な説明ができるのか、すべてのデータに基づいて総合的に判断すること、言い換えると科学の原点である論理を重視すべきということである。
科学者にとってTotality of Evidenceは基礎的な知識だが、ビジネスの観点からは高額の費用がかかる臨床試験で有意差が出なければ大きな損失になる。だから無理に有意差をだす各種のトリックが横行している。
このような論文の正当性を判断するのが科学雑誌の編集委員と査読者だが、厳しい査読を行うことなく投稿論文をほぼ無審査で掲載し、高額の掲載料を取る「ハゲタカジャーナル」と呼ばれる科学雑誌も存在する。この惨状を正すのは科学界の責務であり、そのような努力の一つが批判論文である。
CROの問題
機能性表示食品の効能試験は関係企業が実施する場合とCROが実施する場合があり、前者の場合、有意差の有無が企業の利害と直接結びつくことが不適切な論文を生み出す動機になり得る。他方CROは企業とは別組織であり、臨床試験の専門家の集まりなので、企業より高い科学的倫理感を持つことが期待されていた。
ところが今回の論文でそうではない実態が示されたのだ。その原因はCROが行うほぼすべて(96%)の試験が企業の資金で行われていたことと無関係ではないだろう。
実はCROの臨床試験に対する考え方が問題になったことがある。あるCROが23年に『ヒト臨床試験での有意差を「完全保証」』というプランを発表したのだ。
臨床試験で有意差が出なければ、通常はその時点で終了する。ところがこのプランは「有意差が出るまで試験を繰り返す」という(『「当社なら必ず有意差を出せます!」 臨床試験を絶対クリアさせるサービスが登場し物議 意図を聞いた』)。もちろんこれは科学的真実を解明するのではなく、偶然の有意差を追い求めるものとして厳しく批判された。