来年1月のトランプ政権発足をにらみ、ウクライナへの攻撃を激化させるロシアと、ウクライナを支える米国の戦いが激しさを増している。その口火となったのは、11月7日に行われたとされるプーチン・トランプの〝幻の電話会談〟だ。
トランプ氏は戦争を激化させないようプーチン氏に忠告した一方、ロシアの一部領土占有を認めたと報じられている。ロシア側は電話会談が行われたこと自体を否定したが、すでに水面下で新政権発足後をにらんだ交渉が始まった可能性が高い。
プーチン氏は同じ7日夜の演説で、今後の交渉は、2022年にトルコで行われたウクライナとの和平交渉の内容を土台に進める考えを強調した。戦争の初期段階であった当時、ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)の加盟を目指さない考えにも前向きな姿勢を示すなど、その内容はロシアにとり優位なものだった。トランプ政権発足後は、これらの条件を盾に、米国、ウクライナに圧力をかけてくるのは必至だ。
電話会談以降は、今後の外交交渉を見据えて少しでも多くの領土を得ようと、ロシア軍は西部クルスク州、ウクライナ東部で攻勢をかけている。1000日を超えたロシアのウクライナ侵攻は、停戦をにらみつつ、大きな転換点を迎えつつある。
トランプ次期政権とロシアの交渉は水面下で本格化か
「ワシントン・ポストが報じたプーチン大統領とトランプ氏の電話会談は行われていない。これは嘘だ。両者がコンタクトを取る具体的な計画は、現時点では存在しない」
ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官の11月11日の発言は、国際社会に強い驚きを与えた。同様の報道はワシントン・ポストだけでなく、ロイター通信も匿名の情報源をソースに行っていたからだ。両メディアに電話会談が行われた事実を明かした情報源が嘘をついていたのか、それともロシア側がしらを切っているのか、明確にするすべは存在しない。
ただその後の事態の推移をみれば、両者がコンタクトを取り、トランプ氏が報道された内容をロシア側に伝えたと考えることが自然だ。「ロシア、ウクライナの双方を、大統領就任初日に交渉のテーブルにつかせる」と宣言するトランプ氏が、わずか2カ月あまり先に迫った大統領就任を前に、ロシア側との水面下での交渉を本格化させない理由がないからだ。
ワシントン・ポストは「複数の関係者」から得た情報として、11月7日に行われたという電話会談について以下のように報じている。
トランプ氏はフロリダ州の自宅からプーチン氏に連絡を取り、両者は「欧州大陸における戦争」の終結について話し合い、トランプ氏はウクライナ戦争の早期終結に向けた再度の話し合いに期待をしたという。一方でトランプ氏は、プーチン氏に「米軍は相当規模の戦力を欧州に有している」とくぎを刺す場面もあったという。
ただトランプ氏は電話会談において、ロシア・ウクライナ間の「領土問題についても短時間、触れた」という。トランプ氏は大統領選期間中、ロシアが奪ったウクライナの領土の一部を占有することを容認する姿勢を見せていた。会談で領土問題に触れたのであれば、トランプ氏は、この電話でも同様の姿勢を示した可能性が極めて高い。