2024年12月5日(木)

2024年米大統領選挙への道

2024年11月16日

 2024年米大統領選挙で勝利を収めたドナルド・トランプ前大統領(以下、初出以外敬称および官職名等省略)は、早速、主要な人事に着手した。トランプは、第1次政権のときとは異なった基準を用いて人事を進めており、その背景には過去の「教訓」があるようだ。

 第1次政権の当初は、プロフェッショナルにおいて名声や信頼度の高い人物を政府内の主要なポストに据えて、米国民に安定感を植え付ける手段を用いた。しかし、彼等はトランプの予想を超えた行動に出た。

 では、すでに大統領職において実績のあるトランプは、第1次政権の人事で何を学び、今回、どのようにそれを活かそうとしているのか。果たしてトランプ人事は、次の4年間の政権運営において成功するのだろうか――。

(Alexander Farnsworth/gettyimages)

トランプの「忠誠心」とは

 トランプは、第1次政権の人事で苦い経験をしたようだ。彼は、ジョージ・W・ブッシュ政権で国務長官を務めたコンドリーサ・ライス氏が、推薦したレックス・ティラーソン氏を国務長官に任命した。彼は、エクソン・モービルの最高経営責任者(CEO)で、ロシア連邦の石油最大手の国営ロスネフチのセーチン社長と北極圏および黒海の共同開発で合意した経験を持っていた。

 ロシアとの関係を重視するトランプから見れば、有能な側近を得た心算であっただろうが、世界規模のエネルギー企業のトップであったティラーソンと当時のトランプとのビジネス界の格は、歴然としていた。どのようなコミュニケーションが、2人の間に存在していたのかは分からないが、ティラーソンがトランプを「間抜け」と呼んだと報道がなされるまでには、9カ月弱あった。

 そして、トランプはティラーソンを更迭した。緊張が、利益を上回った結果であろう。

 また、トランプは第1次政権で、司法長官にジェフ・セッションズ上院議員(南部アラバマ州 当時)を任命したが、セッションズは、トランプの命令と圧力にもかかわらず、長官としてロシア疑惑を巡る捜査への関与を忌避すると発表した。トランプは、司法省のロシア疑惑に関する捜査の取り下げを望んでいたとみられる。

 セッションズは、トランプの要請に応じて辞職を提出した。トランプは、セッションズが自分に対する忠誠心に欠けると判断したのだ。

 2人目の司法長官となったウィリアム・バー氏は、議会証言において2020年米大統領選挙に関して「不正は確認できなかった」と、議会で証言をし、トランプと真逆の立場をとった。セッションズと同様、トランプはバーも自分に対する忠誠心が欠如していると解釈しただろう。2020年12月、バーは辞任した。

 さらに、24年米大統領選挙の最終盤になって、トランプの2人目の大統領首席補佐官であった海兵隊大将のジョン・ケリー氏は、トランプが「ヒトラーも良いことをしたと語っていた」と明かし、「彼はファシストの定義に当てはまる」と酷評した。トランプが独裁者に傾倒し易いのは、周辺の人たちの証言からも窺える。

 米アトランティック誌の編集長ジェフリー・ゴールドバーグ氏は、トランプはケリーにヒトラーの将軍のような(忠誠心のある)人物を欲しいと語ったと言う。その意味するとことは、「ケリーよ、忠実たれ」というところだろう。

 では、トランプが考える忠誠心というものは、いかなるものか。これまで筆者がトランプの集会に参加し、ネットで流れる演説および文献資料等で見たところでは、トランプは自己愛が非常に強いために、アドバイザーが助言を行っても、それによって自尊心が傷つけられ、自分に対する「忠誠心」がないと短絡的に結び付けてしまうようだ。

 また、忠誠心は相互関係であるが、トランプの場合、それの関係が一方通行なのだ。2021年1月6日に発生した米連邦議会議事堂襲撃事件では、トランプは暴動を起こしたトランプ支持者から、自分が任命し、忠実にトランプに仕えてきたマイク・ペンス副大統領(当時)を守らなかった。

 トランプは、「絶対的服従」を要求するが、自分は彼らに忠実な対応をする必要はないと確信しているのだろう。つまり、それがトランプが求める忠誠心である。


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