2024年11月5日(火)

2024年米大統領選挙への道

2024年10月29日

 10月下旬になったが、米国ではオクトーバーサプライズ(選挙結果に多大な影響を与える驚くべき出来事)が起きていない。南部を襲い甚大な被害をもたらした2つのハリケーンは、民主党のカマラ・ハリス副大統領(以下、初出以外敬称および官職名略)と共和党のドナルド・トランプ前大統領の支持率に顕著な変化をもたらさなかった。ハリケーンは決定的な要因にはならなかったのだ。

 周知の通り、2021年1月6日、トランプ支持者は米連邦議会で行われた20年米大統領選挙における選挙人確認の作業を「政治的暴力」で阻止しようとした。「1月6日」は、民主主義に対する脅威として米史に残る衝撃的な事件となった。トランプは事件直前にエリプス(ホワイトハウスの南側にある公園)で演説を行い、その際、米連邦議会の方向を指さして、支持者を扇動した。

 米連邦議会議事堂襲撃事件で、少なくとも7人が事件に関連して死亡した。内1人は、暴動の際に亡くなった議会警察官であった。にもかかわらず、選挙集会でトランプは、死亡したのはトランプ支持者の女性1人であったと嘘をついた。

 また、トランプは集会で、トランプ支持者は銃を所持していなかったと主張した。しかし、事件が発生した当日、6人が銃を保持しており逮捕されている。トランプの銃に関する発言も嘘だ。

 トランプは20年米大統領選挙の結果を覆そうとした罪など4件で、有罪の判決を受けた。特に、元不倫相手に対する口止め料に関して帳簿を改ざんした件では「重罪犯」となった。これには民事は含まれていない。

 24年9月、ハリスとのテレビ討論会では、中西部オハイオ州スプリングフィールドのハイチの合法的移民がペットの犬と猫を食べていると公然と嘘をついた。この無責任な発言の影響は大きく、スプリングフィールド市内の小学校などに爆破予告が寄せらせ、子供たちなどが非難する騒ぎとなった。この虚偽の発言は、ハイチ国民に怒りや不快感を与え、ハイチ政府からの抗議もあった。

 上記の事件、起訴および嘘にもかかわらず、オクトーバーになってもトランプの支持率は下がらず、支持者は彼から離れない。日本人の筆者には、これがサプライズだ。

 投開票日は11月5日(現地時間、以下同様)で、10日を切っている。2024年米大統領選挙は、激戦7州で勝敗の決着がつくとみられている。それらは、中西部ウィスコンシンン州(選挙人10、以下同様)、ミシガン州(15)、東部ペンシルベニア州(19)、南部ノースカロライナ州(16)、ジョージア州(16)、西部アリゾナ州(11)およびネバダ州(6)である。

 では、ハリスとトランプは、人口によって各州に割り当てられた選挙人の過半数270を、どのようにとろうとしているのか。まず、選挙情勢からみていく。

(Sinisa Vidic/gettyimages)

黒人男性とヒスパニック系

 現在、ハリス陣営の激戦州の責任者であるダン・カニネン氏は、2008年米大統領選挙でオバマ選挙対策事務所の幹部を務め、共和党が圧倒的に強かった南部バージニア州に、オバマの勝利を導いた立役者である。そのカニエンが、民主党全国大会前の7月末に支持者に向けて、ハリスはアフリカ系、アジア系、女性、ヒスパニック系、若者の連合軍、いわゆる「異文化連合軍」で勝利を目指すと語った。

 8月の民主党全国大会で大統領候補に指名された頃、ハリスは、すでに異文化連合軍の中で黒人とヒスパニック系の支持が充分得られていなかったが、選対ではまだ改善できる余地があると捉えていた。しかし、選挙戦の最終盤になっても、ハリスが黒人男性とヒスパニックの票を取り切れていないことが明確になり、ハリス陣営は、急遽、対策を打っている。

 米CNNの出口調査によれば、2020年米大統領選挙で、ジョー・バイデン候補(当時)は黒人の87%、トランプは12%の票を獲得し、バイデンがトランプを75ポイントも上回った。ヒスパニック系ではこのパーセンテージは、バイデン65%、トランプ32%で33ポイントの差があった。

 バイデンは、オバマ政権の副大統領として2期8年を務め、36年間の上院議員としてのキャリアを通じて得た知名度もハリスよりもはるかに高かった。その上、バイデンには男性であるという優位性が働いていたに違いない。

 今回の大統領選挙では、世論調査で定評があるマリスト大学(東部ニューヨーク州)の全国世論調査(24年10月8~10日実施)によると、アフリカ系のハリス支持は75%、トランプ23%で52ポイント差である。バイデンと比較すると、ハリスのリードは23ポイントも低い。

 ヒスパニック系に至っては、ハリス支持が54%、トランプ支持が45%で9ポイント差であった。こちらもバイデンと比べると、ハリスは24ポイント下回っている。

 その理由は何か。経済やインフレが貧困層の多い黒人を直撃したという指摘があるが、加えて、黒人男性の黒人女性に対する支配の文化、蔑視や差別が根底に存在すると言われている。ハリスにとって人種内のジェンダーの問題が障壁となっているのだ。

 ハリスが黒人男性票獲得で苦戦を強いられているのを知ったトランプは、選挙集会で「私は黒人男性が好きだ」と敢えて言い、黒人男性にアピールしている。また、「不法移民が黒人とヒスパニック系の人々の職を奪っている」とも訴えて、具体的なやり方を示さないまま、国内から大量の不法移民を強制送還させると約束した。

 トランプの狙いは巧妙だ。合法的に市民権を得たヒスパニック系や米国で生まれたヒスパニック系の人々の利益を、不法に流入したヒスパニック系の人々が侵害しているとして、敵対心を植え付ける。その対立に、黒人も巻き込んで、敵対のレベルを一段高めて、「ハリスの移民政策の無能」の方向に導いている。


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