ハリスとオバマは黒人男性を説得できるのか?
これに対して、ハリス陣営は選挙集会で、ミュージシャンのスティービー・ワンダー氏や映画監督のスパイク・リー氏など有名な黒人男性を全面に出して、彼らに支持を求めている。また、10月24日に開催された南部ジョージア州のハリス陣営の選挙集会では、黒人のラファエル・ワーノック上院議員(民主党・同州)が演説を行い、「私は多くの黒人男性がドナルド・トランプに投票するとは思わない」「私たちは彼がどのような人物か知っている」「トランプは黒人の大統領(オバマ)が米国で生まれていないと言っていた」と述べて、ハリスかトランプかで揺れ動く黒人男性を引き戻そうとした。そして、トランプは米国を後退させ、ハリスは前進させると語気を強めて2人を比較した。
さらに、同選挙集会では、ハリスは初めてバラク・オバマ元大統領と一緒に舞台に上がり、黒人男性に投票を呼び掛けた。その際、オバマは演説の中で黒人男性に多い黒人女性に対する性差別を非難せずに、トランプの性格に焦点を当てた。
中でも注目に値するのが、オバマは、トランプの元大統領首席補佐官で海兵隊大将であったジョン・ケリー氏の発言を取り上げたことであった。オバマは、ケリーが米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューの中で、トランプが「ヒトラーは良いこともした」と繰り返し称賛していたと明かしたことを聴衆に伝えた。ハリスも、ケリーが述べたトランプのヒトラーに関する発言に言及して、トランプを非難した。
筆者は歴史学者ではないが、異文化間コミュニケーション論を学んできた者として、トランプが今回の選挙期間中に、アドルフ・ヒトラーを想起させる言葉を幾度か使用してきたことを確認している。
例えば、トランプの公式のソーシャルメディアに「統一帝国」という言葉が登場した。また、トランプは「政敵は寄生虫」「(不法移民は)わが国の血を汚している」と比喩を用いて彼らに攻撃を加えた。
上記のようなトランプが有権者に向けて発信した発言を考えてみると、ホワイトハウスでトランプを身近にいたケリーの証言は信憑性が高いと思われる。
さらに、ハリスとオバマは、トランプが「内なる敵」という言葉を使い、敵は海外よりも国内に存在すると強く認識していると指摘した。ハリスは他の選挙集会でも、トランプの「国内の敵」に関する発言を批判している。「敵」はウラジーミル・プーチンロシア大統領などの外国勢力ではなく、米国内にいる反トランプのジャーナリスト、20年米大統領選挙で不正がなかったと主張する選挙管理委員会のスタッフ、トランプを起訴した判事などを指し、彼らはトランプの「敵のリスト」に入っていると言うのだ。
ハリスによれば、トランプは民主主義に反する権威主義的、独裁主義的な性格を帯びている。ハリスの分析が正しいとすれば、トランプが大統領に返り咲いた場合、権力に対する監視が効かなくなり、民主主義は大きく後退し、米国は弱体化する。故に、ミシェル・オバマはトランプを大統領にしないためにも、戸別訪問を実施し、電話による支持要請を行い、投票所に出向いてハリスに投票をするように強く促しているのだ―ー”Do something”と。
「性格攻撃」は有効か?
選挙戦が最終盤に入り、ハリスはトランプの性格と大統領としての不適格さに焦点を当てた攻撃を本格化させている。この戦略は有効であろうか。
米国の専門家の中には、トランプの性格に対する攻撃は機能しないと断言する者がいる。確かに、2016年米大統領選挙では、ヒラリー・クリントン元国務長官がトランプの性格を主要な争点に据えて戦ったが、逆にクリントンは公務に関わるメールに私的なサーバーを使用していた、いわゆる「メール問題」と彼女の性格を絡めたトランプの反撃に直面し、効果を上げることができなかった。
しかし、それから8年間が経過した。現在では、誰もが「トランプ」を知っている。多数の民主党支持者、無党派層および一部の共和党支持者は、トランプの分断を激化させる過激な発言、不正行為並びに無数の嘘に拒否反応を示し、大統領としての適性に強い疑問を抱いてきた。前のトランプ政権でトランプの側近を務めたケリーなどの「良識派」は、トランプが大統領として「不適格」という立場をとっている。
16年米大統領選挙と比較すれば、ハリスのトランプの性格と不適格を突いた攻撃は、一定の効果を上げ、票の上積みにつながると考えるのが妥当だ。