2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2024年10月24日

(ISerg/gettyimages)

「激戦州の中のペンシルベニア州をハリスさん、トランプさんのどちらが取るかで米大統領選挙の勝敗が決まります」ーー。

 大統領選挙の投票が2週間足らずに迫る中で、米国の政治事情に詳しい海野素央明治大学政治経済学部教授が10月21日に、「アメリカを覆う深刻な分断と民主主義の危機~アメリカ大統領選挙2024の行方はいかに~」と題して日本橋浜町の「Hama House」で講演した。司会は、グットモーニングス社の水代優代表、聞き手は大城慶吾「Wedge」編集長。

司会進行を務めたグットモーニングス社代表で、会場となった日本橋浜町の「Hama House」を運営する水代優氏(左)。海野教授(中央)、大城編集長。

選挙人270人が勝敗ライン

大城 編集長 まれにみる接戦となっている現状の選挙戦をどう見ていますか。

海野 教授 2020年の大統領選挙で僅差により勝敗が決まった州が、中西部のウィスコンシン、ミシガン州、東部のペンシルベニア州、南部のノースカロライナ、ジョーシア州、西部のアリゾナ、ネバダ州の合計7州でした。このため7つの激戦州をどちらの候補が取るかが注目されています。

 トランプさんは、ジョージア、ノースカロライナ、ペンシルベニアの3つを最短距離で取ろうとしており、この3つを取ればトランプさんの勝ちです。

 ハリスさんは、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアの3つを取ろうとして、この3つで勝てばハリスさんが選ばれます。

 これをみればペンシルベニアが両候補とも重なっているので、特に関心が集まっています。ペンシルベニア州の選挙人は19人で、激戦州の中では最多のため、両候補ともこの選挙人を取ろうと必死になっているわけです。

 270人の選挙人を取った方が勝つ計算になるので、最後の勝負はペンシルベニアで決まるのではないでしょうか。

 米国の大統領選挙は、投票数の多い候補が選ばれるのではなく、人口によって各州に割り当てられた選挙人を取っていくゲームです。なので、総得票数では決まらなくて、この選挙人を多くとった候補が大統領に選出される制度になっています。それが民主主義なのかという疑問もありますが、エキサイティングでゲーム感覚があります。

移民問題の取り扱いが焦点

大城 編集長 両方の陣営は選挙戦の終盤でどのような戦略を出してくるのでしょうか?

海野 教授 2週間を細かく分けて戸別訪問などの戦略をしてくると思います。ハリス陣営は、オバマ元大統領、ミシェル大統領夫人などを動員して黒人票を取ろうとするなど巻き返しに出るでしょう。

 トランプさんは、2016年の選挙では移民問題で受けて選挙に勝ちましたが、20年の選挙ではコロナ禍がマイナスになり負けました。今回の選挙では再び移民問題を持ち出して、これで勝てると思っているようです。

 トランプ陣営も今回の選挙では、「不法移民が正常移民の仕事を奪っている」などと訴えることにより、移民層の分断を図ろうとしています。また、本来は民主党が多くの得票が見込める黒人、ヒスパニック層に対しても、分断を図る作戦をしてきており、最近の調査では、ハリスさんは、バイデン大統領が20年の選挙で獲得した黒人、ヒスパニック票を獲得できないという予想が出ています。

大城 編集長 最近はトランプさんの娘のイヴァンカさんとその夫のクシュナーさんは見かけませんが、どうしたのでしょうか?

海野 教授 イヴァンカさんは20年の選挙で父親は勝っていないと議会証言して、父親との間に心理的な溝があるようで、まったく出てきていません。

分断が進み暴力に訴える米国社会

大城 編集長 米国の分断は大きくなり、大統領選挙後に「第二の南北戦争」が起きるのではないかといったことを予想する人もいます。

海野 教授 ハリスさんは選挙の結果は受け入れると言っています。トランプさんは負けたら、結果を受け入れず、不正があったからだと言うでしょう。

大城 編集長 民主、共和党の支持者では、もはや「対話」が成り立たないというという見方もあるようです。

海野素央。明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント研究所(IMI)客員研究員(08~10、12~13)。08年と12年の米大統領選挙で日本人として初めてオバマ陣営に入る。10年米中間選挙において、ジェリー・コノリー連邦下院議員(民主党・バージニア州第11選挙区)の草の根運動に参加。同時に、オバマ大統領の政策支援団体「オーガナイジング・フォー・アメリカ(OFA)」で活動。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化ビジネス論、産業・組織心理学

海野 教授 どちらの候補に投票したかによって、友達、家族、ご近所に関係が崩れるのは事実です。ハリス陣営のウェブミーティングに出席した時に、参加者のチャットなどを見ても「選挙が終わったら、ご近所関係を良くしたい」といった話は多く出ています。民主主義の本山である米国の今回の選挙で、民主、共和党の投票の誤差が小さく動かないということは、社会が分断している証拠と言えます。

 これは相手に対する尊敬、敬意を払わなくなっていることになります。我々は話を聞いてくれる人の方が好きです。自分の話だけをして人の話を聞かない、全面否定されると委縮してしまいます。しかも米国の場合、暴力に訴えます。世論調査を見てみると、共和党の中には「正常な状態に戻すためには暴力に訴えても良いのだ」という意見も強くあります。暴力、脅し、圧力をオーケーとする社会は民主主義ではありません。

大城 編集長 いまの日本でも、相手の意見を傾聴した上で自分の意見を述べ、より良いものにしていくための対話が少なく、相手を論破するのが流行っていますが、論破は何も生み出しません。ハリスさんとトランプさんは対話ができるのでしょうか?

海野 教授 先日のテレビ討論でトランプさんはハリスさんの顔を全く見ずに話していました。対話をすることは難しいと思います。

大城 編集長 今日のアメリカの姿は明日の日本なのかもしれません。そういう意味で、あらゆるところで対話ができる「場」をつくっていく必要があります。これは、様々な場所で、「まちづくり」「場づくり」を手掛けてきている水代さんのお仕事にも共通するものがあると思います。

水代 代表 私は長年、日本全国の各地で「まちづくり」に参画しています。商店街の人から話を聞くときに「そんな考えもあったのですね」と、否定しないで最大限に受け入れてくることが大事だと思っていて、今日の海野先生のお話の内容と共通するものがあると感じました。時間はかかるけど、他人に意見を受け入れながら辛抱強くすることの重要性が良く分かりました。


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