米大統領選挙については、かつて「オハイオ州を制すれば、米大統領になる」と言われた。しかし、現在、中西部オハイオ州は共和党が強い赤い州(赤は同党のシンボルカラー)ないしピンク色の州と呼ばれ、もはや激戦州ではなくなった。代わって注目を浴びているのが、東部ペンシルベニア州であり、2024年米大統領選挙では、「ペンシルベニア州を制すれば、米大統領になる」。激戦州の中で、ペンシルベニア州は最大の選挙人19人を擁するからである。
そのため、民主・共和両党の大統領候補、カマラ・ハリス米副大統領(以下、初出以外敬称および官職名略)とドナルド・トランプ前大統領は、ペンシルべニア州を何度も訪問し、時間とエネルギーを費やしてきた。
そこで、本稿ではまず、ペンシルベニア州の票の行方について述べ、次に今回の選挙の勝敗の鍵になる要素に関して説明する。その上で、2024年米大統領選挙の意味について考えてみる。
ペンシルベニア州の「変移」
ペンシルベニア州では、どちらの候補が選挙人19を獲得して、第47代米大統領になるのか。票読みの資料となる世論調査結果は、時事刻刻と変化している。
世論調査で定評のある米マリスト大学(東部ニューヨーク州)がペンシルベニア州に特化して行った投開票日直前の世論調査(24年10月27~30日実施)によれば、両氏の支持率はハリス50%、トランプ48%で、ハリスがトランプを2ポイント上回った。統計上の誤差が3.4%なので、ハリスのリードは誤差の範囲内だ。
しかし、この世論調査結果で、ペンシルベニア州におけるトランプの弱さが明らかになった。無党派層の支持率が下がっているのだ。
ペンシルベニア州の無党派層の支持率は、ハリス55%、トランプ40%で、トランプは15ポイントもハリスを下回った。9月の時点では、トランプはハリスを4ポイント上回っていた。
2020年米大統領選挙では、ジョー・バイデン大統領は無党派層の52%、トランプは44%を獲得した。ハリスはバイデンよりも無党派層の支持を得ているが、トランプは前回の選挙と比べると、支持率を落としている。
また、ペンシルベニア州において、トランプは白人の支持率も下げている。同州における白人の支持率は、トランプ51%、ハリス47%であるが、トランプは前回の米大統領選挙で白人の57%を得ており、最終盤になっても6ポイント下回っている。
さらに、トランプはペンシルベニア州の男性の支持率も失っている。男性の支持率はハリス47%、トランプ51%で、トランプのリードは4ポイントであった。だが、前回の米大統領選挙では、トランプは、男性有権者の得票率で、バイデンに対して11ポイント差をつけた。
となると、ペンシルべニア州で前回よりも白人労働者の票を獲得できないかもしれない。いずれにしても、同州でトランプは、「無党派層・白人・男性」の支持を得ていない。では、一体何が影響を及ぼしたのだろうか。
考えられるのは、トランプ支持者の大富豪イーロン・マスク氏のペンシルベニア州での選挙活動で、それが多少の影響を与えた可能性は否定できない。マスクは、有権者登録を行った上で、言論の自由と銃の所持を含めたマスク主導の請願書に署名をした有権者の中から、抽選で投開票日まで毎日1名に100万ドル(約1億5000万円)を与える運動を起こした。しかし、「違法な宝くじ」の疑いがあると指摘され、マスクは裁判所に出頭を求められたが、彼は姿を現さなかった。
マスクのこの一連の行動は、「金で票を買う」行為および「傲慢」と捉えられ、いわゆる“良識派”である無党派層や中間所得者層がトランプから離れる結果をもたらし、トランプにとってマイナス要因になったと言える。
また、トランプの支持基盤である白人と男性の支持減少に関しては、この4年間で「トランプ」を知ったことが影響したと考えらえる。2021年1月6日に発生した米連邦議会議事堂襲撃事件や選挙結果の転覆などの試みを含めた4件の起訴、度重なる虚偽発言で、トランプの性格や資質に大きな疑問を持ち、大統領として「不適格」と判断した可能性がある。この件については、今後、信頼できる世論調査会社や大学、研究機関のレポートが出るであろう。
いずれにせよ、「バイデン対トランプ」から「ハリス対トランプ」に対立構図が変化し、今回の選挙は大統領らしさを問い直されている。