ちなみに、マリスト大学のウィスコンシン州およびミシガン州に特化した投開票日直前の世論調査においても、トランプは前回の米大統領選挙と比べると、無党派層と白人の支持率を落としている。
一方、ハリスはペンシルベニア州において、黒人票を取り切れていない。マリスト大学の同世論調査によれば、黒人の支持率はハリス84%、トランプ16%だが、2020年米大統領選挙でバイデンは92%の黒人票を得た。それと比較すれば、ハリスが黒人票を充分取り切れていないことは明確だ。
その背景には、経済やインフレが黒人を直撃したこともあるが、黒人男性の黒人女性に対する蔑視、差別、支配の文化並びに強度な女性嫌悪(misogyny ミソジニー)が根底にあると考えられる。また、トランプはトランプ支持者のプロレスラー、ハルク・ホーガン氏を全面に出し、マッチョな強い白人男性に憧れる黒人男性を引き付けている。
ただ、ハリスはペンシルベニア州での黒人男性の支持獲得に苦戦を強いられているが、トランプの無党派層と白人および男性の支持率低下で、黒人男性の不足分を補足できるかもしれない。
さらに、トランプ支持者のコメディアンがニューヨークでのトランプ集会で、プエルトリコを「海に浮かぶゴミの島」と呼んだ差別的発言が、ペンシルベニアにおけるハリスの票の積み上げになるだろう。全米には、580万人のプエルトリコ系がおり、彼らは怒りと不快感を露わにした。ペンシルベニア州には47万2672人のプエルトリコ系がいるからだ。
「隠れトランプ」対「隠れハリス」
ペンシルベニア州では、トランプを支持する白人と男性が前回の大統領選挙よりも減っている世論調査結果が出たが、黒人女性を心理的に受容できない白人男性は、党派を問わずトランプに投票するかもしれない。また、黒人女性を蔑視していると見られたくない黒人男性も、トランプに票を投じると考えられる。
彼らは、世論調査では性差別者や女性嫌悪者に見られないように「ハリスに投票する」と回答するが、実際はトランプに投じる「隠れトランプ」に成り得る。彼らの数字は、世論調査結果に現れない。
一方、人工妊娠中絶容認の共和党支持の女性や、母体に危険が及んでも人工妊娠中絶ができない状況を懸念する共和党支持の男性は、周りのトランプ支持者の友人や同僚に対して「ハリスに投票する」と口に出すことは到底できない。彼らは、「隠れハリス」になって、ハリスに投票し、彼女の票の積み上げになるだろう。
「ペンシルベニア州はマージンのゲーム」になる。ハリス陣営で激戦州の責任者を務めるダン・カニネンは、支持者とのオンラインミーティングでこう述べた。ほんの僅かの票を積み上げた候補が勝ち抜くという意味だ。この「隠れの存在」は、票の読みの作業において、不正確さをもたらす厄介な要因だ。